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ニューヨークのイースト・サイドに住むお金持ちたちの生態を、ナニー(乳母)の立場から描いたものである。 金持ちたちへの強烈な皮肉になっている。 男性たちは仕事に邁進し、家庭をかえりみない。 妻たる女性は、専業主婦でありながら、まったく家事をせずに、子育てにも無関心である。
母親(ドナ・マーフィ)は女手一つで彼女を育てた。 彼女はアニーに金融機関に就職して欲しくて、リクルート・スーツをプレゼントした。 しかし、彼女は自分探しのため、ナニーになってしまう。 大卒の白人で、ネイティブ英語の話者である彼女は、ナニーには引っ張りだこである。 X家に乞われてナニーになってみたが、雇い主たちの勝手な生活に振り回される。 前のナニーもあっという間に辞めていった。 彼女も辞めそうだったが、文化人類学のフィールド・ワークと考えてナニーを続ける。 しかし、如何せん大学を出たばかりでは、観察するつもりも、環境に染まっていくほうが早い。 賃金を支払うほうと、貰うほうでは、立場がまったく違う。 人を使い慣れたX夫人(ローラ・リニー)に、いいように使われる。 とうとう切れて、ナニー監視カメラに八つ当たりして、X家をとびだしてくる。 X家の住む同じアパートに、格好いい男の子ハーヴァード(クリス・エバンス)が住んでおり、彼のほうからアニーに一目惚れ。 X家を飛びだしてきても、彼とのあいだは続いてハッピーエンドという、コミック映画である。 取りたてて言うべきことはないが、子供を巡るアメリカ映画の1本である。 夫は仕事に忙殺され、奥さんは子供そっちのけで、遊びほうけている。 子供はナニーに育てられ、しかも、ナニーは簡単にクビになる。 子供にとって、教育環境は最悪である。 アニーのようなお気楽ナニーは、ほとんいない。 多くはプエルトリコ出身とか、中南米出身の貧乏な人たちである。 彼女たちは生活がかかっているので、簡単に辞めるわけにはいかない。 屈折していくだろう。雇い主への報復として、陰で子供をいじめるかも知れない。 映画のなかの話とはいえ、ハーヴァードは9人のナニーに育てられたという。 これでは安定して愛情を注いでくれる大人がいない。 現代の育児観のもとでは、子供は情緒不安定になるのは必定である。 我が国でも、経済格差が言われだしているが、アメリカではすでに階級分化がかなり進んでいるようだ。 かつて王様たちは、子育てを乳母に任せっきりにし、子供に今言うところの<愛情>を注ぐことはなかった。 血縁という身分制が、子供の成長を支えていた。 そして、貴族という特別のメンタリティを持った人間を育てた。 それは子供の時からの教育に尽きる。 そうでありながら、お金持ちと庶民とのあいだには、人間的な違いはないと前提されているから、ナニーに子育てを任せる少数のお金持ちたちは、歪んだ生活であり性格と見られる。 血縁は事実であり、血縁の親子関係を否定することはできない。 しかし、お金の多寡は作為の結果であり、親子関係も不安定である。 新たな階級が独自の親子倫理を完成するまで、親子関係は浮遊し続けるであろう。 この映画は、現在の子育てを前提にしているが、血縁の親子を大切にすべきだ、という方向を指向している。 庶民の女性たちは、いまや共稼ぎが当たり前になり、女性もフル・タイムで働いている。 共稼ぎの家庭でも、プエルトリカンやヒスパニックなどのマイナリティが、ナニーをやっている。 共稼ぎの親たちは、どんな親子関係を作っていくのだろうか。 今後の大きな問題である。原題は「The Nanny Diaries」 2007年アメリカ映画 (2008.10.13) |
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