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ジェシー・ジェームスの暗殺
  アンドリュー・ドミニク監督

 19世紀のアメリカ西部開拓時代に、有名なギャングだったジェシー・ジェームス(ブラッド・ピット)を、撃ち殺した若者の話である。
ジェシー・ジェームスは、銀行強盗や列車強盗をたびたび行い、彼の名前は全米にはせており、大きな懸賞金がかかっていた。
有名人でもある彼には、あこがれる若者もまた多かった。 

ジェシー・ジェームズの暗殺 [DVD]
photo of The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford,  Casey Affleck, Brad Pitt
IMDBから

 この映画は、ジェシー・ジェームズが主人公ではない。
彼にあこがれた1人の若者ロバート(ケイシー・アフレック)が、彼を撃ち殺すまでを描いた映画である。
最初にロバートが登場し、ギャング仲間に入れてくれと頼む。
ジェシーの兄は拒絶するが、彼は快く入れてやる。

 あこがれのジェシーの側にいられるだけでも幸せだったロバート。
しかし、逃亡に明け暮れるギャングの生活は辛い。
警察からジェシーを売るように誘惑されて、徐々にジェシーから違反していく。
この映画は、一種の心理劇だろうに、ロバートの心理をまったく描いていない。

 なぜ、ロバートがジェシーにあこがれたのか、なぜ、離反していったのか。
葛藤があったはずだが、この映画が描くロバートは、ただ愚かな若者にすぎない。
 他の仲間たちに比べても、知恵が足りないようで、これでは思慮の足りない愚か者の殺人映画である。


 最後の列車強盗をやった後、仲間は南部の各州に散らばっていくが、彼はジェシーと行動をともにすることが許される。
このあたりの説明もよく判らない。
まず、映像に無駄が多すぎる。
意味のない自然の描写や、顔のアップなど、何のためのカットなのか理解に苦しむ。
また、思わせぶりな科白が多く、ギャング仲間の会話にも違和感がつよい。

 映画というのは、基本的に映像で見せるもので、カットとカットをつないで理解させるものだ。
科白に頼るようでは、すぐれた映画とは言い難い。
一つのカットがすべて意味を持って、順に並んでいる必要がある。
にもかかわらず、この映画は科白のシーンと、無言のシーンがバラバラである。

 悪人であっても、有名になるには、それだけの理由があるらしく、ジェシーは悪く言われなかった。
賞金のかかった悪人を殺したロバートは、その後、殺人のシーンを舞台化して、全米をまわる。
しかし、むしろ彼のほうが卑怯者と呼ばれるようになる。

 西部開拓時代には、それなりの倫理観があったのだろう。
ジェシーは悪人であっても、庶民には人気があった。
その彼を裏切って、後ろから撃ったロバートは、むしろ卑怯者と呼ばれても仕方なかった。
彼を愚か者として描けば、簡単だろうが、それでは映画ではない。
当時と今の倫理の違いを背景にして、ロバートの心理描写をきっちりとやるべきだ。

 ギャング仲間が大勢いて、一種の群像劇的な色彩をもってしまったために、まとまりの悪い映画になってしまった。
ジェージー・ジェームスを演じたブラッド・ピットは上手かったが、他の役者たちはどう演じて良いのか判らないまま、カメラの前に立っていたようだ。

 ワイドスクリーンの画面が、まったく消化されておらず、両側がスカスカの画面だった。
また、両側をボカした効果を多用していたが、まったく無意味で、きちんと焦点を合わせた画面にすべきだ。
また、雲の早送りが多用されていたが、無意味である。
リドリー・スコットが製作に絡みながら、良く理解できない出来になっていた。
 
2007年アメリカ映画
  (2008.1.17)

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