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この監督は、ロシア・マフィアをつかって、いわゆる男性的な世界(=古い暴力団)を描きたかったようだ。 暴力とヤクザの掟、それに潜入刑事の根性的超頑張りが、映像化されている。 ヒロインのアンナ(ナオミ・ワッツ)は、行動こそ積極的ではあるが、位置づけはステレオ・タイプ化された女性のものである。
深刻な問題を扱っていながら、充分な娯楽作品に仕上がっている。 残酷なシーンや独特のタッチが多いのは、この監督の趣味なのだろう。 それさえ除けば2時間を楽しめる。 ちょっとセンスは古い気がするが、星一つを献上する。 「イースタン プロミス」とは、イギリスにおける東欧組織による人身売買契約、ということらしい。 ソ連が崩壊し、バルト海に近い国々も独立した。 しかし、産業がないこれらの国々は、きわめて貧しい生活を強いられている。 白人でしかも金髪の女性たちは、先進国で高く売れる。 そのため、この地に暮らす女性たちが、先進国をめざす。 夢見た先進国は甘くない。 先住ロシア人に麻薬漬けにされて、売春を強制されている。 子供は無事に産まれたが、彼女は死んだ。 まだ14歳だった。 流産の体験を持つアンナは、里子に出される赤ん坊に親近感をもつ。 残された日記から、死んだ妊婦の身元を調べ始める。 すると、ロシア・マフィア「法の泥棒」のボス、セミオン(アーミン・ミューラー・スタール)に強姦されて、妊娠したことが判る。 この話に、マフィアの組織内抗争が絡んで、映画は進んでいく。 ボスの息子キリル(ヴァンサン・カッセル)が、組織の1人を殺した。 殺されたのは、チェチェン人だった。 その仕返しが始まった。 キリルの顔が割れてないのを幸い、組織の1人ニコライ(ヴィゴ・モーテンセン)をキリルに仕立てて、仕返しの人身御供に差しだす。 少女の日記はロシア語で書かれており、アンナはロシア語が読めない。 ここがこの映画ミソで、ロシア・マフィアたちと好奇心の強いイギリス人女性との、危うい闘いをハラハラさせて見せる。 しかも、ボスの息子キリルがゲイだったり、ロシア人家族の繋がりの強さが、細かく描写されていく。 しかし、ウラでは密輸からはじまり、売春・麻薬の密売と、典型的な暴力団だった。 そのボスは家族を愛する男で、血縁の人々を大切にしている。 ギャングが血縁の家族愛を大切にするのは、途上国に特有の現象だろう。 強い血縁愛は途上国のものだ。 工業社会以前では、地縁や血縁こそ信頼にたるもので、多くの地域で血縁集団の結束が堅い。 戦前の我が国でも、同郷というだけで頼りにされたり、遠い親戚でも庇いあったものだ。 血縁集団の結束が堅いのは、反対に、血縁のない人間には冷たい。 父親にとって、血の繋がった息子のキリルは、何よりも大切なのだ。 だから、有能な部下ニコライも、血縁がないので平気で裏切っていく。 ロシア・マフィアの内部抗争を、外の人間アンナを絡ませて描いたこの映画は、作りはとても良くできている。 細かい伏線を張って、ロシア・マフィアと出会う筈のない、アンナの行動を説得的にしている。 しかし、よく見ると、主人公はあくまでニコライであり、主題は血縁愛と暴力団である。 しかも、血縁愛の繋がりの強さを、これでもかの残酷さで描いていく。 しかも、その死体を指を切るように、ニコライに処理させる。 もっともこれは、警察への暗号だったかも知れない。 だから、潮の流れで発見されやすい場所に、わざと遺体を捨てたのだろう。 その後も、何人もの男たちが処刑されていく。 そして最後には、ニコライが全裸で格闘するシーンへとつらなる。 残酷さが横溢するなかで、ニヒルなニコライだけが、悪事を働かないのだ。 売春婦に手を出さないし、抱くことを強制されても、セックスのあとに妙な行動を取る。 そして、ステパン(イエジー・スコリモフスキー)殺しを命じられても、殺人現場を見せない。 多くの男たちが残酷でありながら、彼は殺人を犯さない。 このあたりで、彼の素性に妙な感じを抱かせる。 家族愛と血縁愛は違うものだ。 先進国の家族愛は、必ずしも血縁の関係を重視しない。 むしろ愛する心という、無形の愛情で繋がった精神性を重視するから、里子や養子など多彩な家族愛が成立する。 それに対して、途上国の家族は血縁が支えるから、家族の内部でいがみ合っても、血縁のある人間は家族と称される。 血の掟などと言われる所以である。 豊かになった先進国では、血縁を重視しなくても生きていける。 だから、家族のつながりを血縁に求めなくても、家族と称して良い。 しかし、皮肉なことに貧しい途上国では、血縁集団としての家族は大きく、 家族が愛情だけでつながる先進国では、家族は小さくなる。 この映画でも、アンナの家族は小さく、ロシア・マフィアの家族は大きい。 2007年英・カナダ映画 (2008.07.3) |
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