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今年84歳になるシドニー・ルメットの、15年ぶりの新作である。 この年齢になっても、まだ現役であろうとする姿勢には、ほんとうに脱帽である。 しかし、バラバラの家族という、今日的な良い主題を扱っていながら、映画としては力がなく間延びしている。 残念ながら歳のなせるところだろうか。
賢い兄のアンディ(フィリップ・シーモア・ホフマン)は、不動産会社の経理担当の役員までなったが、使い込みが発覚しそうで、それを埋めるお金が必要だった。 自立できない弟のハンク(イーサン・ホーク)は、ただお金がなかった。 アンディは宝石店に強盗にはいることを計画し、ハンクを実行犯として引っ張り込む。 その宝石店は、彼らの両親の店だったので、よく知っているだけに、計画は万全のはずだった。 しかし、ハンクが悪友を実行犯にしたことから、計画が狂い始める。 土曜日の午前中は、女性店員だけがいるはずだったが、この日に限って母親が代理で来ていた。 そして、母親の顔を知らない実行犯が、拳銃で射殺してしまう。 ハンクが店に入っていけば、母親だと分かるから犯罪にはならなかった。 妻を殺された父親(アルバート・フィニー)は、犯人探しに乗りだす。 犯罪劇の体裁をとっているが、この映画の主題は、父親の子育て批判である。 父親は若い頃、宝石の横流しなどの違法行為をしながら暮らしていた。 今では足を洗って、高級住宅地に隠退生活を送っている。 若い頃は、子供たち特に長男のアンディには、きつくあたった。 そして、次男のハンクを溺愛した。 父親の愛を得られなかったアンディは、一種の強迫観念にとらわれ、麻薬に安らぎを求めた。 重役にまでなりながら、阿片屈のようなところに安らぎを求めて、出向いていた。 しかも、インポになった彼は、美人の妻ジーナ(マリサ・トメイ)とは、セックスができなくなっていた。 事件後、まだ事件の真相を知らない父親は、育て方が悪かったとアンディに謝る。 すでに母親を殺してしまった。 今さら謝られても遅い。 使い込みがばれて会社から電話が入り、ジーナは離婚すると言い出す。 ハンクは実行犯の弟に脅され始める。 展開は悲劇的なほうへと転がっていく。 実行犯の弟に強請られて、アンディが交渉に行ったら、銃撃されて重傷をおってしまう。 そして、真相を知った父親が、病室で息子のアンディを殺す。 ここで父親は正体を暴露している。 この映画が描きたかった父親の正体である。 長男のアンディには、立派な人間になって欲しくて、厳しく育てたという建前を父親はいう。 しかし、その内心は、愛情を欠いたものだった。 父親の冷たい心理は、息子に伝わる。 能力のある息子が、父親から離れていくのは当然である。 父親から離れながら、アンディは愛情欠乏症になっていた。 彼の心はよく判る。 現代の父親たちは、子供に判るように愛情を注ぐ。 しかし、この映画のように工業社会の父親たちは、子育てを母親任せにして、子供との関係を大切にしてこなかった。 社会的な上昇志向は、立身出世をもたらし、そこそこのお金持ちにはなった。 この父親だって、小金持ちへの上がりの人生だった。 しかし、上昇志向は子供を犠牲にした。 この映画が描くように、父親は子供を殺しさえする。 社会的には立派な親でありながら、家庭人としては失格である。 表面的には、2人の子供は落ちこぼれである。 長男は麻薬・横領、貧乏な次男は離婚し、養育費も払えない。 そのうえ、兄の妻ジーナと浮気をしている。 しかも、お金に困って犯罪へと走る。 それに対して、父親は立派な社会人である。 表面的には非難されるところはない。 しかし、内心は悪魔のような男だ。 映画は時間軸を行きつ戻りつして進んでいく。 時間を前後する手法は、映像ではなく文字で伝えることになるため、これほど多用されると興ざめである。 制作者は筋が判っているから、自然に感じるかも知れないが、観客側は文字を読まされるので苦痛である。 映画なのだから、映像で表現して欲しい。 2時間弱の映画で、決して長くはないが、前半はとても長く感じた。 愚かな妻ジーナを演じたマリサ・トメイが、44歳になるにもかかわらず、あまりにスタイルが良いのには驚いた。 しかし、愚かでセックス大好きという専業主婦ジーナの性格付けに、監督の年齢を感じるのは、老人への偏見だろうか。 原題は「Before The Devil Knows You're Dead」であり、<死んだのが悪魔に知られる前に>という意味だとすると、誰がユウなのだろうか。 重要な人物で死んだのはアンディだから、ユウとはアンディだろう。 アンディが死んだことを悪魔が知る前に、アンディが天国にいけますように、という意味なのだろうか。 2007年アメリカ映画 (2008.11.05) |
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