タクミシネマ      ワイルド スピード X3:TOKYO DRIFT

ワイルド スピード X3 TOKYO DRIFT
  ジャスティン・リン監督

 日本の車文化が、やっと認められつつある。
車が限界まで試され、胸の熱くなるシーンが連続する。
グリップ走行が主流の車世界にあって、後輪駆動の車が、有利なドリフト。
それは日本発の運転技術だ。

 冒頭からB級です、といって始まるこの映画には、通常の期待をしてはいけない。
主題とか筋とか、俳優といった興味は度外視して、ただ運転技術だけをみる。
そうするとこの映画は、見事に期待に応えてくれる。
そして、我が国の若者が、いかに優れているか教えてくれる。

 小型車全盛の一時期、我が国の車は、前輪駆動一色になりかかった。
FFと呼ばれる前輪駆動車は、オーバー・スピードでカーブに入ってから、アクセルを放すと後輪から滑り始める。

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 ちょっと間をおいてアクセルを踏んでやれば、接地力=グリップを回復し、車は綺麗にカーブを曲がってくれる。
かつてのミニ・クーパーやスバル1000などが、FF特有の楽しい運転を味あわせてくれた。

 運転に楽しさを求めてはいけない我が国のこと、メーカーはFFの特性を殺すことに専念していった。
そうしたなか、密かに人気を集めていたのが、FRと呼ばれる後輪駆動の車だった。
 FRはカーブで軽くハンドルを切り、アクセルを放してサイド・ブレーキをひくと、後輪がロックして滑りだす。
ここでハンドルを曲がる方向と反対にきって、アクセルを踏んでやれば、タイヤが接地力を失ったまま、車は綺麗にカーブを曲がっていく。
これがドリフトである。

 普通の運転で曲がるには、タイヤの接地力に期待しているが、俗にドリフトという運転は、接地力を失わせることによって成り立っている。
だからグリップ走行のF1でも、4輪駆動が主流のラリー界でも、ドリフトは注目されていなかった。
 しかし、面白いものは面白い。
我が国のドリフト・オタクたちが、峠道を果敢にせめていた。

 ドリフトは、F1ほどのハイ・スピードをださなくても、車をあやつる面白さを、存分に味あわせてくれる。
自分だけの走り方をみつけ、運転が上手くなったような気分にさせてくれる。
 しかも、ハンドルの当て方をちょっと間違えば、車はコントロールを失って、ヒィヤ・ドキである。
 なんともデリケートな技術なのだ。

 我が国の若い男たちは、誰からも認められないまま、無益なことと知りつつ、ドリフト・テクニックにはまっていた。
今では、車を充分にコントロールしながら、後輪を華麗に滑らせ、あたかもハンドルを切るように、アクセルで曲がっていく。
ここまでくると、世界が放っておかない。日本の劇画やアニメなどと同様に、ドリフトは世界の技術になってしまった。

 フェアレディー、RX7や8、シルビアなどなどが、タイヤから白煙を上げて、いつまでも旋回し、次にはカーブを曲がる。
立体駐車場内の螺旋カーブを、わずか数センチの間隔で曲がっていく。
見事にドリフトしながら、何台もの車が交錯しつつ、カーブを曲がっていく。
ため息が出るほど上手い。
おそらく運転手たちは、コーナリング中も涼しい顔であろう。

 小型で高馬力の国産車は、ドリフト走行には最適である。
足回りを固めて、エンジンをちょっとチューンナップすれば、ほんとうに楽しい運転ができる。
車好きはみんな、小遣いをかき集めて、車につぎ込んでいる。
この映画では、たくさんの車を衝突・大破させていたが、あんなことはあり得ない。
こだわりの車をかんたんに壊すわけがない。

 我が国は、物といった形のある工業製品の価値は判る。
しかし、無形のソフトを、理解する力がない。
劇画だって、アニメだって、コスプレだって、最初は少数のオタクが、はまっていただけだ。
しかも、宮崎君を見るように、それを世の中は否定的に見ていた。
ドリフトも同様。車を世界中に売りまくり、いまや車大国になりながら、車文化には盲目だった我が国の大人たち。

 何でも暴走運転として否定し、警察の取締対象にする。
この映画で、やっと日産と三菱が、スポンサーになったのだろうか。
しかし、これだって外国で認められたからだろう。
F1などには大金を投じながら、愚かな自動車メーカーは、我が国の若者の車文化に否定的である。
街の不良が楽しんだスケボーを、オリンピック種目に仕立て上げる先進国と、若者を否定する我が国の力量の違いは、我が国の若者たちが克服していくだろう。

 貧しい人たちには、形のあるものしか理解できず、豊かな社会になってはじめて、無形のものの価値が判るのだろう。
貧しい時代に育った大人たちには、ソフトが何であるか理解できない。
ソフトがお金になると知ってはじめて、その価値を知るのは仕方ないのだろう。
若者がソフトをつくっているので、我が国もやっと豊かな社会になってきた。
今後は日本人も、ソフトで世界と戦えるだろう。

 アメリカ製の映画だから、最後にアメリカ人の主人公が、ドリフト・レースに勝つのは当然だろう。
しかし、その時に乗っているのが、1967年製のマスタングだというのは、凋落する自動車産業国らしくて、とても哀愁が漂っていた。
しかも、そのマスタングのエンジンが、日産のRB26に積み替えられていたのも、映画を作ったアメリカ人たちはよく判っている。

 主人公ショーン(ルーカス・ブラック)がドリフトを練習する車が、三菱のランエボだったのが不思議だった。
しかし、前輪への駆動力を切るように、改造していたのだとか。
4輪駆動車ではドリフトしにくいと思ったのだが、その疑問は劇場パンフレットを読んで納得した。

 CGが多用される昨今、この映画はほとんど実写だろう。それが驚き。
「ワイルド スピード」の第3作目ということになっているが、前作・前々作とはまったく関係ない。
原題は「The fast and the furious: tokyo drift」
(2006.9.19)


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