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冒頭の舞台は、1970年の中頃くらいだろうか、 徐々に時代を下りながら現代へと映画は展開する。 インドのコルカタ(西ベンガル州の州都)にある富裕なガングリー家の若旦那アシュケ・ガングリー(イルファン・カーン)が、アメリカに留学する。 お金持ちの家の若者は、外国にでる前に許嫁を決めることが多い。 彼もアシマ(タブー)を娶って、アメリカに留学した。
やがて子供が産まれ、男の子はゴーゴリ(カル・ペン)と名付け、女の子はソニアと名付ける。 アメリカでゴーゴリという名前は、やはり奇妙に聞こえるらしく、 大学生になったゴーゴリは、ニケルと名前を変えた。 オーソドックスな映画の作りで、物語は両親のアシュケとアシマ、それに息子をめぐって進んでいく。 外国人のアメリカ定着をめぐる話で、われわれも同じような異郷体験をした。 途上国からアメリカに来ると、誰でも後進性から抜け出すのに時間がかかる。 しかし、妻のアシマは家庭の人だから、男尊女卑の旧習からなかなか逃れられない。 指導する夫に、従う妻。 戸主たる男性をたてる妻。 保護する夫と保護される妻を、不思議な愛情がつつむ。 旧習を感じさせるインドに、反発を感じる息子。 アシュケの突然の死に茫然自失する妻。 父の死に血縁を思いだして、父親への思慕にひたる息子。 インドの旧習から逃れたかったにもかかわらず、インド人であることを自覚して、ゴーゴリは髪の毛をそり落とす。 特別な事件は起きない。 ゴーゴリは白人の女性マクシーン(ジャシンダ・バレット)を恋人にしていたのが、 父親の死をさかいに白人文明から離れていく。 そして、母親の希望を入れて、ベンガル人女性モウシュミ(ズレイカ・ロビンソン)と恋に落ち、結婚する。 しかし、悲しいことに、モウシュミには結婚後にも愛人がいた。 もはやインド人と言うだけではダメだ。 インドの後進性を充分に意識しながら、 アメリカへの敬意とインドへの愛着をもって、移民の生活をたんたんと描いていく。 アメリカに適応するには、ほんとうに簡単だ。 新参者であっても、アメリカはあっという間に受けいれてくれる。 大学を出たアシュケは、いつの間にか大学の教員となっている。 アシマも図書館でパートタイマーになっている。 インド人監督は、インドを悪くは描かないが、後進性の意識ははっきりしている。 反対にアメリカ人がインドに入ろうとしたら、 血筋や家柄などを一切問われずに、ガングリー家のように簡単に入り込めただろうか。 インドの金持ち世界では、婚前交渉すると結婚前の女性を、傷物にしたということになる。 だから、インド人男性が、アメリカ人の恋人を振っても、人種差別と言われないが、 アメリカ人男性がインド人女性を振ったら、人種差別と言われかねない。 個人の人権が明確な世界へ適応する方が簡単なのだ。 先進国のほうが誰にも公開性を保つので、 途上国から来た人間は、平等な人権保護を受けることができる。 しかし、途上国では人権概念がもともと希薄だから、外国人に人権を保障しないことが多い。 情報公開しながら戦争するアメリカと、秘密主義の北朝鮮を比べてみれば、簡単にわかるだろう。 ロンドン生まれのアメリカ育ちの原作者ジュンパ・ラヒリも、 アメリカは問題が多いとはいえ、アメリカの公正さには感謝しているはずだ。 この映画は、アメリカの公正さを認めた上で、異郷に住むということを考えている。 そして、ゴーゴリという奇妙な名前を、物語のスパイスにして2つの文化を対比して見せている。 知性は国境を越えるのか、アシュケを演じたイルファン・カーンが、とてもインテリっぽかった。 アシマを演じた38歳のタブーは、さすがに嫁入り前の乙女を演じるには、あまりにも豊満な体つきで違和感があったが、後半は適役だった。 インドでのシーンが、露光不足なのだろうか、ずいぶんと暗かった。 原題は「The Namesake」 2006年アメリカ映画 (2008.1.8) |
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