タクミシネマ        インサイド・マン

インサイド・マン    スパイク・リー監督

 あまり話題にはならない映画だったが、
なかなか細かくしかも大胆なトリックで、拾いものをしたような気分だった。
ニューヨークの映画だから、きびきびした展開は、ハリウッドものとはちょっと違っている。
小品といった感じがある。

インサイド・マン [DVD]
公式サイトから

 マンハッタン・トラスト銀行が、作業着姿に覆面をした強盗に襲われた。
そのとき、客だまりには30人くらいの客がいた。
そこへ4人組の強盗が侵入したのである。
強盗たちは外部との接触をたちきり、たちまち防犯カメラを機能不全にした。
客たちの携帯電話をとりあげ、洋服を脱がす。
そして、持参した作業用のつなぎを、全員に着せた。
これで強盗たちと客の、区別が付かなくなってしまった。

 ニューヨーク警察が、速攻で警備に出動する。
バリケードを築き野次馬を遮断する。
犯人との交渉には、フレイジャー(デンゼル・ワシントン)があたる。
ここまでは実に手際よく進む。
しかし、これから先、いっこうに事態は進展しない。
犯人たちもふつうの銀行強盗とは、少し違うような感じがする。 

 マンハッタン・トラスト銀行の創立者は、ナチに協力して財をなした。
その後アメリカに渡って、銀行をおこしたのだった。
そして、ナチに協力した証拠の品物を、自分の銀行のこの支店の貸金庫392に隠していた。
それを知った犯人たちが、証拠の品を盗みに入ったのだ。


 銀行の創立者は、証拠品が明らかになると、自分の経歴がばれて、地位を失うことになる。
そのため、ことが明らかにならないよう、もみ消しを画策する。
銀行の創立者から依頼を受けた女弁護士(ジョディ・フォスター)が、強盗たちと面会して、それを阻止しようとする。 

 犯人たちはお金が目当てではない。
証拠の書類と高額なダイヤモンドを盗んだ。
この計画が天晴れだった。
人は殺さない。
お金も盗まない。
ただ銀行の創立者に復讐することだけが目的だった。
計画は周到をきわめた。
4人がペンキ職人を装って、大きな荷物を持ち込む。
その中には客の人数分のつなぎを入れておく。

 人質とした客に、つなぎを着せる。
人質をグループに分けて監禁するが、仲間を客の中にまぎれこませておいた。
そのため人質が自発的に協力する。
一般客である他の人質の管理もお手のものである。
そのうえ、覆面をしているので誰が犯人だか、人質たちにも判らない。

 警官たちが突入したときには、人質が逃げ出すが、
犯人たちは人質になりすまし、犯人を特定できない。
警察は人質も犯人と扱う。人質たちが怒り出す。
結局、犯人が特定できず、被害もなかったということで、捜査が打ちきりになってしまう。
そんな、という感じだが、それでもフレイジャーは事件を追い続ける。

 首謀者(クライブ・オーウェン)だけは、銀行内に隠れ場所をつくって、1週間にわたり立てこもっていた。
ほとぼりが冷めた頃、ダイヤモンドとナチの書類をもって、堂々と銀行の正面玄関からでてくる。
そして、銀行の創立者とナチとの関係を暴き出し、古傷を白日の下にさらけ出すのだろう。
しかし、その役割はフレイジャーがはたして、映画は終わる。


 ナチの協力者が、アメリカに逃げたことも当然だろうが、
それを今でも追いかけている人間がいる。
ほんとうに驚きである。
やはりナチは、単にドイツだけの問題だけではなく、近代を開いた西洋人たちの汚点なのだろう。
だから、こうも執念深く映画化されるのだろう。

 銀行強盗と警官の映画だから、「ファック」だとか「シット」といった、
汚い言葉がつかわれるのは予測できる。
しかし、ニューヨーク市長が、ジョディ・フォスター演じる女弁護士にたいして、
「マーヴェラス カント」と言うのには驚いた。
映画全体が、犯人側に肩入れしているようで、
既存の権力を茶化しているのは、この監督のお家芸だろうか。
   2006年アメリカ映画     (2006.7.16)

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