タクミシネマ         カサノヴァ

カサノヴァ    ラッセ・ハルストレム監督

 時代は18世紀、ヴェニスの街での話。女性にもてまくる男性カサノヴァ(ヒース・レジャー)がいた。
しかし、常識に反して、女性から女性へと渡り歩いた話ではない。
女漁りに余念のなかった彼が、晩年になって、1人の女性フランチェスカ(シエナ・ミラー)に焦がれた話を、ひっそりと物語る映画である。

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 恋愛が現在のようになる前、男女の結びつきは、もっと気まぐれだった。
結婚と恋愛は別物だった。
多くの女性たちは、カサノヴァとベッドをともにすることをのぞんだ。
修道女たちですら、カサノヴァとのセックスをのぞんでいた。
この映画に登場する女性たちは、全員が色情狂的で、ただ1人フランチェスカだけが違った。

 彼女は精神的な恋愛を求め、終生の愛情に基づいた関係だけを好んだ。
今から見ると、こんな女性は保守的な堅物に見える。
それでも彼女は、女性の地位が低かった時代に、女性が活躍する物語を書いて、巷間の評判になっていた。
しかし、女性が物を書くことは認められていなかった当時のこと、彼女は男性のペンネームを使っていた。

 その彼女に、カサノヴァはいかれてしまうのである。
早速、彼女にアタックするも、彼女の嗜好はカサノヴァのスタイルとはまったく異なる。
そんな時、彼女は零落した家のために、新興商人と結婚する羽目に陥っていた。
カサノヴァはそれを知ると、自分が商人の身代わりになって、彼女にアプローチしていく。

 映画だから、もちろん結果はハッピーエンドだが、この映画はどうも時代認識が間違っている。
いまでは恋愛から終生の結婚へ至るなど、時代錯誤も甚だしい。
ましてや、終生の一夫一婦的な男女関係は、それが理想とされた時代をとうに過ぎている。
だから、この映画が描くような恋愛は、もう古くて古くて見ていられない。
むしろ、女性から女性へと渡り歩く男性の、生理と心理を入念に分析した方が、はるかに面白いだろう。

 多くの女性が、カサノヴァとベッドをともにしたがるが、彼はその希望に完全に応え得たのだろうか。
男性は回復時間が必要だが、あれほどの要望に、彼が応えきっていたとすれば、
そのあたりの構造はどうなっていたのだろうか。
肉体的関係は低劣であり、精神的な愛情こそ高級なものだというのは、今ではほとんど否定され尽くしているだろう。

 一時代前の恋愛観にもとづいた映画で、退屈きわまりなかった。
美点を探せば、ただ一つ。
ヴェニスのカーニバルであろうか。
仮面を付けた男女が、絢爛豪華な舞台に美しく踊る。
カラーの発色が悪く、それ以外に見るべきはない。
  2005年アメリカ映画
 (2006.7.10)

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