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ブロードウェイでロングランされているミュージカルの映画化である。 まあなんと達者な役者たちだろう。 ほれぼれする。セリフと歌の部分が、ほんとうに自然に繋がっている。 突然に歌い出すという感じがなく、セリフが歌に変わっても、まったく違和感がない。 どこから変わったか気がつかない。
体型の同じようなダンサーを揃えることができるのも、役者たちの層が厚いからだろう。 また、お婆さんたちのラインダンスは、若い女性たちのそれにも増して素晴らしい。 やっぱりミュージカルはアメリカのものだ。 文句なしに星を献上する。 落ち目のプロデューサーであるマックス(ネイサン・レイン)と、気の弱い会計士レオ(マシュー・ブロデリック)が、初日で打ちきりになりそうな最低のミュージカルを企画する。 集めた制作費を、猫ババしようという魂胆である。 それには、出来が悪ければ悪いほど良い。 ところが結果は、予想に反して大ヒットしてしまう。と、この部分の話が前宣伝でも多いが、 むしろミュージカルが開幕するまでが、この映画の見せ所である。 脚本には、ナチ賛美のものが選ばれる。 そこからして、西洋諸国でのタブーを選んでいる。 そして、プロデューサーを演じるネイサン・レインのくちゃくちゃな顔。 おせいじにでもスマートとは言えない体つき。 それがとんでもないエネルギーで、歌い踊り動き回る。 相方をつとめるマシュー・ブロデリックも達者である。 とにかく素晴らしいテンポで、次から次へと話が湧いてくる。 無言でとられる間も、良いタイミングで息抜きになっているし、決して飽きさせない。 むしろ、ちょっとした間が観客の興味を繋いでおり、監督の音楽的な力量を感じさせる。 女性監督でありながら、物語を組み伏せる腕力もある。 彼女は今まさに働き盛りだろう。 原作がブロードウェイでロングランされているが、この映画の主人公はミュージカルにプライドをもっている。 ミュージカルが好きで好きでたまらないのだ。 でも、ずっこけの彼は、金儲けに走ろうとする。 そのおかしさが、実に楽しく伝わってくる。 とにかく役者たちが上手いのだ。 そして、ゲイ役の男性が、いかにもゲイっぽいのだ。 この映画のゲイたちは実に活きがいい。 かつてネイサン・レインは、「バードケージ」でゲイ役をやっていたが、今回の彼はストレート役である。 紫色が好きとか、バーバラ・ストライザンドが好き、 といったように、アメリカではゲイに固有の嗜好が、笑いに使われる。 我が国では、まだゲイが表に出てこないので、ゲイにかんするジョークが市民権を得ていない。 そして我が国では、固有の属性をもった人たちを、 笑いの対象にするのは差別だとされているらしく、誰かたちを笑いのめすと言うことが少ない。 バナナの皮で滑って転ぶ人を笑うのが、前近代の笑いで、近代人は笑う自分を笑うものだ。 とすると、笑いの対象になったゲイが、 笑われている自分を笑いのめすのは、きわめて近代人だと言うことだ。 何でも差別と言って止めるのではなく、差別されている方も、差別自体を笑えるくらいに強くなったほうが良いだろう。 社会的な制度にかんしての差別は、断固止めるべきだ。 兵役からプールの更衣室まで、徹底的に男女平等、男女一緒にすべきである。 しかし、人間の心にある差別意識を、完璧になくすことは不可能である。 むしろ、差別意識を飼い慣らして、笑いのめすくらいのほうが、人間的におもしろいし、人生に深みが出てくると思う。 ゲイのちょっと変わったおかしな趣味を笑うのは一向にかまわないだろう。 我が国の反差別運動は、制度改革ではなく意識改革を訴えるから、どうしても窮屈になってしまう。 意識と制度を峻別しないから、女性運度も女っぽさを否定せざるを得なくなる。 どんなに色っぽく女性的であっても、女性解放運動は担える。 また、肌を露出したり、乳房の大きさを強調するのは、女性運動家だって許されるのだ。 ナチを賛美するミュージカルが上映されると、初めは不愉快になって観客が席を立とうとする。 しかし、ナチを笑いものしていることが判ると、観客は席に戻り、舞台に大声援を送る。 これだって、意識と制度が分かれているから可能なのだ。 ミュージカルで天皇批判をやることを想像すれば、ことは簡単に了解できるだろう。 笑いの連続だったが、強いて難を言えば、ユナ・サーマンの大根ぶりが目立ったくらいである。 達者な役者たちと、卓越した演出によって、2時間をたっぷりと楽しめた。 2005年アメリカ映画 (2006.4.09) |
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