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男はいらないが子供は欲しい。 懸命な努力結果、やっと子供を授かったエミリー(キラ・セジウィック)は、全身全霊で子育てに立ち向かった。 生まれた子供ポール(ドミニク・スコット・ケイ)は本当に可愛くて、彼女は天にも昇る気持ちだった。 この映画は、子供を持つ必要性がなくなった社会で、初めて成立するものだ。 いまや子育ては、趣味以外の何ものでもない。
福祉が未整備な社会や、高齢者の蓄財が完了していない社会では、老後のために子供は不可欠である。 不可欠な子供を育てるのは、生きるためにしなければならない義務であって、趣味ではない。 子供が不可欠な社会とは、多くの男女が結婚する社会でもある。 とすれば、独身で子供を持とうなど、と思う余地がない。 非力な女性が男性と対等になった、豊かな社会になって初めて、女性が独身のままで子供を持つことができる。 男性に充分な収入があっても、男性は子供が産めないから、1人では子育ては不可能である 。しかし、女性に充分な収入ができれば、自分で産んで育てることは可能になる。 とりわけ精子がお金で買えるようになれば、女性の意志だけで子供を持つことができる。 この映画は、女性だけで子供を持ったときの、趣味として子育てにおける、育児と社会性の狭間を描いたものである。 小さな子供はまだ自我を主張しないので、自分の希望を子供の上に全面的に振りまくことができる。 子供はどんな育て方をしても育っていくので、子育てには特別の規則はないと思いがちである。 子供が動物と同じ乳幼児の時代には、子供に社会性を体得させる必要はない。 この時代には、関係性を子供に見せる必要はない。 しかし、徐々に成長してくると、人間社会の生き物へと、脱皮することが要求される。 ここで、人間としての自我が芽生えるので、子供に直面した子育てだけでは対応できなくなる。 社会性を子供に体得させるには、育てる人間が社会に向かっていなければ、子供は社会性を実感できない。 この段階になっても、子供に直面したままだと、育てている人間を疎ましくなってきさえする。 かつては、母親が小さな子供に直面して子育てを行い、徐々に成長するにつれて、父親が社会性を見せてきた。 女性が家事労働を担い、男性が有給労働を担うという、性別による役割分担は、上記の子育てに適していた。 女性が自立してくると、女性に稼ぎがうまれ、女性だけでも子育てができるようになった。 しかし、動物的な育児と社会性を体得させる行為は、背反的な仕事であり、1人の人間が行うのには荷が重い。 子供が産めない男性は、どう頑張っても独力では育児にたどり着けない。 この映画と同じ次元では、1人父親は誕生しようがないのだ。 だから1人母親を批判しているのではなく、むしろ子育てには育児と社会性の涵養があり、それをどう両立させるかという問題意識が撮らせていると理解したい。 振り返ってみれば、農耕社会では人間の社会性が薄く、育児の延長だけで成人になり得たように思う。 文字を知らなくても生きていけたし、日々を生きさえすれば生活はなりたった。 だから、男性も女性も、性別による役割など意識しなくても良かったのかもしれない。 ただそこにあったのは、肉体的な腕力に秀でた人間と、出産力に秀でた人間の違いしかなかったのだろう。 肉体的な違いが違いとしてある状態では、社会的な性別役割へと昇華しない。 性別役割が社会性を獲得して初めて、その社会性が個人を拘束し始める。 そこではじめて、育児と社会性の涵養が分離するのだろう。 つまり、育児と社会性の涵養が分離するのは、近代に入ってからだろうし、それがゆえに近代の育児は性別役割と適合的だったのである。 主題をごろりと差し出しても、それでは一言で済んでしまい映画ではない。 育児に入ってからの展開が主になるべきで、精子を体内に取り込むまでのドタバタが長すぎるし、エミリー自身の子供時代の回顧は、上手く繋がっていない。 この映画は、あまりに仲の良い両親だったので、自分に充分な愛情を注いでもらえなかったことを、1人母親への動機としているが、取って付けたような説明である。 1人母親が多いアメリカならではの映画で、1人で子育てをしている女性への、この監督なりの現実的な感想かも知れない。 おそらく子育てが趣味であることが、よく認識できていないのだろう。 しかし、1人母親に育てられている子供は、すでに山のようにいる。 しかも、1人母親に育てられた子供も、2人親に育てられた子供も、ほとんど精神的に変わりがない、と言われている。 育児と社会性の涵養の狭間を、もっと追求すべきだったろう。 この映画は、女性だけの子育てへの否定的な観念が、先行しているように感じる。 2004年アメリカ映画 (2006.4.04) |
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