タクミシネマ        親切なクムジャさん

親切なクムジャさん   パク・チャヌク監督

 英語の題名は「Sympathy For Lady Vengeance」だが、日本の題名は「親切なクムジャさん」である。
邦題も趣があって良いが、内容的には英題のほうが精確である。
韓国での原題は、どちらなのだろうか。

 子供を誘拐殺人した犯人にされ、クムジャさん(イ・ヨンエ)は13年も刑務所暮らしをしてきた。
半ば冤罪であり、真犯人のペク(チェ・ミンシク)は、英語教師をしてぬくぬくと暮らしていた。
劇場パンフレットでは、無実の罪で収監されたとなっているが、
量刑はともかく誘拐殺人の幇助ではあるだろう。
だから出所後、彼女は指を切って両親に謝罪したのだ。

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 収監されたときから、彼女は復讐のために生きると決めていた。
刑務所のなかでは、優等生を演じた。
虐められている女囚を助けたり、北朝鮮からの工作員を助けたりと、
誰にでも親切にしたので、「親切なクムジャさん」と呼ばれた。
しかし、それは出所後の復讐に備えたものだった。
出所後ペクを見つけだし、着々と復讐をすすめていく。
その過程がしつこいくらいのカメラワークで、変色気味の画面に描かれていく。

 この映画の主題は、いたって簡単である。
復讐を主題にしながら、個人的に恨みを晴らしても心は晴れない、というものだ。
それを言うために、この監督は、やや不気味とも思える画面を、延々と構成している。
肉食人種のようなしつこさと、バイタリティをこの映画からは感じる。
映画の出来自体よりも、監督の粘着的な執念がすごい。
何でもないワンカット、ワンカットが、気色迫る迫力をもって、迫ってくる。


 画面自体の迫力は、この監督の基本的な力量を物語るが、
物語や映画作りに関しては、前作「オールド・ボーイ」に及ばない。
説明を端折るのは良いとしても、それによって物語が判りにくくなっては困る。
クムジャさんの子供が、オーストラリアにいるのは分かるが、
それがペクによって養子に出されたのは、映画だけでは判らない。
クムジャさんとペクの関係を、事前にもっと説明して欲しかった。

 刑務所内での親切は丁寧に描かれているが、
刑務所内と出所後のつながりが、極端に省略されており、やや無理がある。
刑務所内で親切にされたので、出所後にクムジャさんの頼みを断れないとしても、
元同僚は頼まれてペクと結婚までするだろうか。
それに一度はクムジャさんに心酔しながら、あとでペクに寝返る伝道師(キム・ビョンオク)の行動も不可解である。  

 物語を構成するエピソードが、途中で無関係に登場してくるので、
観客は新たな話を構成しなければならず、話がどうしても散漫になってしまった。
たとえば、ペクは他にも子供を誘拐殺人している事実など、最後になっての唐突の登場である。
殺された子供の両親も復讐に参加するのだから、
ペクや事件の全貌に関係に関して、もっと事前に伏線を張るべきだろう。

 前作では、たくさん張り巡らされた伏線が、後半でよく効いてきたが、
この作品ではエンディングへの集中力に欠けていた。
そのため、不気味さは伝わってきたが、
クムジャさんはがなぜ、どのようにして復讐を計画していたのかが、よく判らなくなっていた。
おそらく監督は、今までの経験から今回の流れを作ったのだろうが、もっと緻密な物語作りを求めたい。

 前作では最後でのどんでん返しが、きわめて有効に効いており、
主題といい物語の作りといい、感心させられた。
しかし、今回はどうやって終わらせるのだろうか、まだどんでん返しがあるはずだ、と思わせておきながら、
波乱なく予想通りに終わっていった。
これでは肩すかしである。


 粘着的な画面の雰囲気は、前作と同様だが、画面構成がちょっと違ったように感じた。
撮影者が変わったのだろうか。
それとも意識的にやったのだろうか。
いずれいせよ主題をきちんと展開するので、この監督は力量があることはわかる。
今後を楽しみにしよう。 
2005年韓国映画
(2005.11.25)

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