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ジョン・アービングの小説「未亡人の一年」の映画化である。 と言いたいのだが、小説の前半3分の1をもとにした映画らしく、短くしてしまったぶんだけ、主題が不鮮明になっていた。 家族の機微が主題だったのだろうが、ダメ童話作家の喪失感か、美しい中年女性の火遊びか、映画としては主題がよく判らない。
コダックフィルム特有のこっくりとした色が、スクリーンに美しく映し出される。 離婚しそうなマリアン(キム・ベイシンガー)が、愁いをたたえて登場するが、彼女の皮膚はコダックの色に良く合っている。 独特の雰囲気を持つキム・ベイシンガーは、年老いたとは言え未だに美しい。 いや美しく老いたと言うべきだ。 高校生のエディ(ジョン・フォスター)でなくとも、悩殺されてしまうだろう。 童話作家のテッド(ジェフ・ブリッジス)は、一作だけ大ヒットをとばした。 その印税で、ニューヨークからほど近い海岸に、豪華な住宅を構えていた。 それがトラウマとなり、夫婦の間にすきま風が吹き、いまや離婚寸前だった。 彼等は、海辺の自宅と街中のアパートを、週の半分ずつ行ったり来していた。 もちろん別居である。 大きな自宅には、小さな女の子ルース(エル・ファニング)がいたが、マリアンは彼女にも愛着が薄くなっていた。 そんなところへ、作家志望の高校生エディが、テッドの助手としてやってくる。 エディは当初は敬意をテッドに感じていたが、なかなか仕事をしないテッドを見るうちに、エディはマリアンに興味を感じ始める。 テッドは人妻であるイヴリン(ミミ・ロジャース)と浮気をしていることもあり、マリアンの心が安らぐならと、エディの関係を黙認していた。 しかし、こうした関係が長続きするはずはない。 とうとうマリアンは家を出ていく。 テッドはイヴリンとも確執がおき、関係は破綻する。 そして、エディも首にして、彼は1人になる。 1人になってみると、ひしひしと寂寥感が襲ってくる。 「ドア・オン・ザ・フロア」ではく、「ドア・イン・ザ・フロア」であるところに、何か意味があるのだろう。 普通のドアは壁についている。 しかし、このドアは床についているのだ。 プラグマテッィクなアメリカ人には、あまり深刻な哲学は似合わないが、この映画はきわめて厳しい精神性を感じさせる。 子供の死がきっかけとは言え、今日のアメリカ人たちも、人間存在を問い始めてしまったのだろう。 中年者たちが逢い引きをしても、たっぷりと官能を満足させたあと教会で十字を切って、何もなかったように普通の生活に戻っていく。 旧教を信じる彼等は、何でも神様が許してくれるから、悪事も心おきなく出来る。 しかし、プロテストしてしまったアメリカ人たちは、悪事を楽しむことは自分の心が許さない。 神にプロテストしたこととは、善悪の決定権を自己の支配下に置いたことである。 そのため、悪人であろうとした人間は、徹底して悪人を演じる。 それにたいして善良である多くの人間は、一時の悪事を働いても、逡巡と後悔に苛まされる。 しかし、神はもはや救ってくれない。 自己の行動を、自分の内心にとどめて、じっと振り返るより以外に方法はない。 売れてしまった童話作家の、放埒とは縁遠い生活が、破滅型の作家の必然ではなかったところに、テッドの寂しさがあった。 マリアンの放心は、子供を失った心の傷であろう。 死んだ子供の話題になると、エディとのセックスが終わって、官能が満たされた直後でも、身体が硬直してしまう。 そして、一言も喋ることが出来なくなってしまう。 そのトラウマが、徐々に深い傷となって、とうとう夫婦関係が破綻してしまう。 これは子供の存在が、かつてとはまったく違ったことを物語る。 だから、子供の死は大きな痛手だったが、それでも産み直せばすんだ。 しかし、今では子供は、大人の精神を支える存在である。 子供がいなくなると、大人は精神が崩壊するほどの衝撃を受ける。 経済的な必要性なら、やり直しもきくが、精神的な衝撃は立ち直ることがより困難である。 子供の大切さ、充実した精神生活の難しさ、婚姻という制度は人間関係を保証しない、などなど今では当然な前提の上に、物語が成立している。 この映画も、最近のアメリカ映画の流れの上にある。 40歳にならない若い監督だが、この映画はアメリカが哲学し始めている、と見ても良いのかも知れない。 2004年アメリカ映画 (2005.10.25) |
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