タクミシネマ       Be Cool

Be Cool     F.ゲイリー・グレイ監督

 「ゲット ショーティ」の続編だというが、
あのいいかげんで、しかも小気味の良いテンポがなくなってしまった。
監督が替わったら、雰囲気がすっかり変わってしまったというのは、
やはり映画は監督のものだからだろうか。
作らない方が良かった続編である。

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 前作では取り立て屋だったチリ(ジョン・トラボルタ)が、今度は音楽業界に手をだす。
冒頭で音楽会社を経営する友達が殺される。
その奥さんイーディ(ユマ・サーマン)と彼は仲良しだったので、2人で新人リンダ(クリスティーナ・ミリアン)を売りだそうとする。
彼は音楽のことは良くわからないはずだが、お気に入りのリンダへの思い入れだけで、プロデューサーを引受ける。
 
 映画業界とはまた違う掟があって、音楽業界は危険がいっぱい。
にもかかわらず、彼はリンダが所属していたプロダクションから、強引に引き抜いてしまう。
相手のプロダクションの経営者ニック(ハーベイ・カイテル)は、当然のことに怒って、殺しを差し向ける。
それにロシアン・マフィアと、やばい黒人の編曲家シン・ラサール(セドリック・ジ・エンターテイナー)が絡んで物語が進む。

 
 リンダの売り出しには、エアロ・スミスが一役買い、彼女は前座で登場する。
スティーヴン・タイラー自身が登場し、俺は映画にでるような音楽家じゃないというが、こんな映画にでるようでは落ち目なのだろう。
もちろんリンダの結果は、万々歳なのだが、エアロ・スミスはもう古い。
不思議なことにローリング・ストーンズやクィーンは古びないが、エアロ・スミスは歴史の彼方になっている。

 エアロ・スミスの出演が売りの映画なのかも知れないが、
音楽に関しては黒人ラッパーたちのほうが、ずっと力がありはるかに今日的である。
ポピュラー音楽が猥雑さや不良性を失ったら、もう音楽の命はないに等しい。
有名になった音楽家が、いかがわしさを保ち続けるのは困難なのだろう。
有名であること自体が、正当性をもってしまい、文部省唱歌になっていくに違いない。

 前作は、映画が好きで好きで仕方ない人たちの物語だったが、
音楽業界は音楽が好きというより、金目当ての人が多いようだ。
また、映画はつまるところ好きな人たちの手作りであるのに対して、
音楽は好きな人=演奏家や歌手が作れても、独自では作品を売り出すことができない。
映画も産業だが、音楽はそれ以上に産業らしい。
その違いは判からなくないが、物語として説得性が弱い。

 映画作りは素人でもできはするが、やはりプロの作品とは完成度が違う。
素人はプロにはかなわない。
素人の作品とプロの作品では、充実度合いがまるで違う。
しかし、音楽はプロより上手い素人など、いくらでもいる。
作曲にしても、歌い手にしても、プロと素人との差がない。
プロと素人の違いは、職業にするか否かでしかない。
音楽業界は一種のギャンブルなのだろう。

 題名こそ「be cool」だが、映画の中身はちっともクールじゃない。
イーディが乗っていた古いサンダーバードが格好良かったが、
チリの乗っていたホンダのハイブリットカーは格好良くない。
いくらリッター30キロ以上走るといっても、あのデザインでは一種のキッチュでしかない。
プリウスが未来性を感じさせるデザインで、辛うじて車らしいのに、ホンダはどうしたと言うところである。


 ロス・アンジェルスの夜景がきれいで、
ウィルシャー・ブルーバードからハリウッドにかけては、豪華な家が多い。
地域での防犯が良いのか、多くの家がガラス張りで、実に開放的である。
ダウン・タウンには貧乏人も多いが、いつものことながらアメリカの豊かさを知らされる。 
2005年アメリカ映画
(2005.09.18)

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