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71歳になっても、まだ映画を撮っている。 いまだ現役である事実には頭が下がる。 しかし、老作家の常として手堅くはあるが、平凡なできとしか言えない。 数々の作品を生みだした人らしく、売れっ子俳優をならべて、破綻なく物語をすすめていく。 老練な職人芸といっても良いが、それ以上ではない。
アフリカの小国マトボ共和国生まれの女性シルヴィア(ニコール・キッドマン)は、国連の同時通訳である。 彼女はあるとき、自国のズワーニ大統領を暗殺する計画をきいてしまう。 それを警備部門に伝えると、早速に調査がはじまるが、ズワーニ大統領は3日後に、国連総会で演説することになっていた。 国連としては暗殺を阻止するために手を打たねばならない。 警備についたFBI捜査官ケラー(ショーン・ペン)は、なかなか彼女の話を信用しない。 彼女が暗殺者の一味ではないかと疑う。 映画は彼女の生いたちを描き、その疑惑があながち不当でないことを仄めかしていく。 マトボ共和国は、アフリカの小国の例にもれず、今でも内戦が絶えず、多くの人が殺されていた。 シルヴィアの両親も殺され、今また兄も殺されてしまった。 若きズワーニ大統領は、平和と繁栄を約束していた。 しかし、内戦が始まると、ズワーニ大統領は自分の利権を守ることに執着し、多くの人を殺していった。 そのため、彼は自国民への大量殺人容疑で、国際司法裁判所への召還も求められていた。 彼は国連総会で演説することによって、自分の正当性を訴えようとしていたが、 反対派が暗殺しようとしていたのだった。 この手の映画の常で、シルヴィアの立場がなかなか明かされない。 彼女は犠牲者か、それとも暗殺者の一味として容疑者か。 そのうえ、ケラーは他の男に走った奥さんを、20日前に交通事故で失っていた。 捨てられたとはいえ、彼は彼女にぞっこんだったので、精神的に大打撃だった。 観客はケラーの心理を背景にしながら、この謎解きを見ていくことになる。 国連の内部が珍しいので、それなりに面白く見ることができるが、謎解き映画の定番的展開である。 物語の中心ではないところで犠牲者を出し、あたかもシルヴィアが悪者であるかのように思わせる。 しかし、ニコール・キッドマンがこの映画の主人公だから、彼女には最後まで活躍の場を与える。 そして、ショーン・ペンとの対決によって、最後に映画が終わる。 この映画はアフリカの現状を舞台として使っているだけで、 政治映画ではないといってしまえばそれだけだが、政治状況にまったく踏み込んでいない。 とりわけ国際政治は、黒白が簡単につくものではないにもかかわらず、 アメリカ映画は政治に黒白を付けたがる。 たぶん二者選択的なアメリカ人の発想が、魑魅魍魎の住む政治の世界向きではないのだろう。 1997年に撮られた「クワトロ ディアス」という、ブラジルの政治状況を描いた優れた映画があった。 この映画は、暴力が人間の神経を腐敗させていくことを、敵味方双方の人間に描いており、 味方の立場に立ちつつ、味方を批判する難しい視点をとっていた。 透徹した目が秀逸だった。 残念ながらアメリカ映画に、こうした複眼的な視点は期待できない。 アメリカ映画では、正しいのは味方、間違いは敵と、単純そのものである。 どうしても勧善懲悪の娯楽作品へと流れていくので、作品に単純な結論しか与えることはできない。 個人の実存や正義、また生きる意味など、先進的に問うことは、アメリカ映画も大胆にやるが、 アメリカ映画では結局のところ政治は描けない。 それとも時代が思考を作るという意味で、アメリカの時代が長く続くと、政治状況まで単純なアメリカ的発想になっていくのだろうか。 演技の上手いニコール・キッドマンだが、アフリカ出身の白人を演じるには、ちょっと馴染んでいない。 平等主義のアメリカに、彼女はアメリカ人以上に適応しているせいか、 途上国の育ちの良いエリートの雰囲気がたりないのだ。 ところどころカラーの発色が悪く、老練な監督にしては、不手際と言わざるを得ない。 2005年アメリカ映画 (2005.09.09) |
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