タクミシネマ       奥さまは魔女

奥さまは魔女     ノーラ・エフロン監督

 1964〜72年にかけて、アメリカのテレビの人気番組だった「奥さまは魔女」を使って、
女性監督が1本の映画に仕立てた。
サマンサ役をニコール・キッドマン、エンドラ役をシャーリー・マクレーンが演じている。
面白いエピソードが沢山ありながら、うまく消化できておらず、
明らかに失敗作だろう。

奥さまは魔女 [DVD]
公式サイトから

 テレビでは普通に結婚した奥さんが、たまたま魔女だったという設定で、
人間の夫と魔女とのちぐはぐさが、おかしさを生んでいた。
この映画では、映画で人気を失いそうな俳優がテレビに流れ、
「奥さまは魔女」で復活しようと画策する。
サマンサ役にイザベル(ニコール・キッドマン)をキャスティングするが、何と彼女は本物の魔女だったという展開である。

 本物の魔女なんて、誰も信じていない。
魔女をやめようとしているイザベルの言動が、人間たちに勘違い的に捉えられ、そのおかしさがウリなのだ。
しかし、ちっとも面白くない。
コメディ映画なのだから、笑いに行っているのに笑えない。
どこがつまらないのだろうか。
エピソードの使い方が下手なのと、間の取り方が違うのだろう。


 父親のアナジェル(マイケル・ケイン)の反対を押し切って、
イザベルは自分が魔女であることを、夫のダーリンに告白しようとする。
隠していることに耐えられないのだ。
告白がいかにも清教徒の国アメリカ的で、ここがこの映画の山場のはずだが、驚きが伝わってこない。
伏線を張ったり、観客を勘違いさせたりといった、
映画的な組み立てができていないように思う。

 ニコール・キッドマン、シャーリー・マクレーン、そしてマイケル・ケインと、芸達者な人たちが出演しており、
こんな仕上げになって勿体ないと思う。
落ち目の映画俳優ダーリンには、ウィル・フェレルが扮している。
アメリカでは、有名なスタンドアップ・コメディアンらしいが、
映画の主演にはちょっと雰囲気が違うようだ。

 60代も半ばになったノーラ・エフロン監督は、すでに老人と呼ぶべきか。
彼女も青春時代には、おそらくテレビの「奥さまは魔女」を見たはずである。
1968年後の熱き時代には、
テレビの中では、保守的な家族番組が多かった。
「パパは何でも知っている」や「アイ ラブ ルーシー」といった家族物は、
良き夫と専業主婦それに子供たちといった、標準世帯が使われていた。
学生運動の波は、まだテレビの中へは浸透していなかった。

 テレビのサマンサが、専業主婦だったのに対して、映画のサマンサは俳優という職業人である。
この設定の違いに40年の年月と、フェミニズムの浸透がある。
標準世帯はもはや使われない。
同じちぐはぐさを描くのでありながら、主人公の設定が違うのは、
当然といえば当然だが、やはりアメリカのフェミニズムの底力を感じる。
観客が専業主婦の女性を許さないのだろう。

 我が国での話、「サザエさん」をリメイクしたときに、職業人という設定にするだろうか。
「サザエさん」は今でもテレビで放映されているが、
主人公のサザエさんはいまだに専業主婦のままだ。
それでも25%の視聴率があるのだから、
我が国では専業主婦が、平和な家族の代表のように見られているのだろう。
放映時間からして、サザエさんを見ているのは、専業主婦が多いのだろう。
アメリカの女性たちとは、何という違いだろう。


 老人となった女性監督には、古き良き家族への感慨はないのだろうか。
おそらくないのだと思う。
アメリカの女性たちは、男性たちとの競争に耐え、孤独に苛まれたと思う。
それでも彼女たちは、職業人たる地位を手放さない。
そして、古き良き家族へ戻ろうとはしない。
現在のアメリカの家族映画が、専業主婦をまったくと言っていいほど、登場させないのは本当に立派だと思う。
2005年アメリカ映画
(2005.08.31)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る