タクミシネマ       ライフ イズ ミラクル

ライフ イズ ミラクル   エミール・クストリッツァ監督

 1992年のボスニアでの話とある。
ヨーロッパの裏庭と呼ばれるバルカン半島だが、その現状は発展途上国である。
たしかに景色はアジア的ではない。
しかし、いくらヨーロッパの田舎といっても、現地を流れる空気が先進国ではないのだ。

ライフ・イズ・ミラクル [DVD]

公式サイトから

 鉄道技師ルカ(スラブコ・スティマチ)の一家は、鉄道を敷くためにセルビアとの国境の村にきた。
オペラ歌手だった妻は、田舎暮らしに耐えられない。
息子ミロシュ(ブク・コスティッチ)は、サッカーの選手を夢見ているが、兵隊にとられてしまった。

 ルカは技術者らしく戦争に関心はなく、ただ鉄道を敷くことにだけ邁進していた。
そんななか、彼の妻は田舎暮らしに飽き、村に巡回してきた音楽隊との男と逃げてしまう。
そのうえ、息子が出征してまもなく、彼が捕虜になったという知らせが届く。
動転している彼の元に、敵国セルビア人の女性サバーハ(ナターシャ・ソラック)が届けられる。

 当初はサバーハを、息子との捕虜交換に使おうという計画だったが、2人だけの共同生活を送るうちに、ルカとサバーハのあいだに愛情が芽生え始める。
サバーハが美人だったことから、このあたりもお決まりの展開で先が読めてしまう。
ルカとサバーハはひどく年齢が離れているが、ルカのほうが年上だから、途上国ならこのケースは許される。
反対に、女性が20歳も年上は、途上国では許されないだろう。


 この映画は、大きく3つに分けることができる。
前半は、ルカの家族の描写。
中盤が、逃げた奥さんの後釜に座ったサバーハと、ルカの愛情物語。
そして、後半は戻った奥さんとの確執と、背景となっている戦争の描写である。
一つの映画が3つに分断されるのは、物語としては余り好ましいことではない。
3つのエピソード゙が、渾然一体となってこそ上手な映画製作である。

 この映画の撮影や映画技法は、古典的なものであり、登場人物なども馴染みのある性格付けである。
しかし、この監督は特異な映画観をもっているらしく、映像の組み立てというか見せ方が少し普通とは違う。
つねに音楽隊を登場させ、吹奏楽の音が全編に鳴り続けているようだ。
もちろん、科白の場面や音楽の入らない場面もあるが、特有の騒音感が映画の全体を覆っている感じがするほど、全体が騒々しいのである。

 この監督のタッチが好きだという人には、この騒音感が良いのだろうが、物語の進みが鈍いことも手伝って、どうも消化不良の感じがつきまとう。
一般的にいって、途上国の映画はテンポが鈍いが、この映画もご多分にもれず、テンポが鈍い。
カットが長いだけではなく、余分な風景や無駄なシーンが多く、2時間半の長さになっている。

 映画は2時間と決まっているわけではないが、2時間というのは観客が集中力を維持できる時間として、経験的に導かれてきたのだろう。
だから、2時間を超える場合には、よほどの仕掛けがないと途中で飽きてしまう。
インディペンデント系の映画と見るべきなのだろうか。
もしそうなら、不安定な露出はやむを得ないところだが、監督の50歳という年齢を考えると、技術的にもう少し安定しても良いように思う。

 戦争の無情を描きたかったのかも知れないが、1992年という時代設定にもかかわらず、ボスニア紛争が背景に使われているだけで、結末も何だか付け足しのようだった。
奥さんから逃れてのサバーハとルカの愛情物語なのか、サバーハがセルビア人だったがゆえに、捕虜交換で引き離れた悲劇なのか、映画の主題もはっきりしない。


 愛してしまったサバーハと、息子が捕虜交換となるというのは、たしかに二律背反的な話であり、もっともっと深く展開できたはずである。
息子が戻ってくるのは喜ばしいことだが、愛するサバーハがセルビアに戻って、離ればなれになるのは耐えられない。
結局、ルカは鉄道自殺しようとするが、そのとき、サバーハがその列車に乗っていて、目出度し目出度しという結末である。

 この映画の主題は、戦争が引き裂く愛情関係かも知れない。
コメディであり、それを戯画的に描いたつもりかも知れないが、それにしては主題が最後にちょっと現れるだけである。
この主題をいうために、全編を積み上げてきたという感じもないし、ちょっと馴染みにくいタッチだった。
2004年仏.セルビア・モンテネグロ映画
(2005.07.26)

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