タクミシネマ        シャル ウィ ダンス

シャル ウィ ダンス   ピーター・チェルソム監督

 この映画が周防監督の同名の映画を、リメイクしたとは周知の話だが、原作を越えることはとても難しいようだ。
この映画に関しても、原作のほうがはるかに優れている。
映像の処理やお金のかけ方は、アメリカ版のほうが上だが、主人公の動機付けや物語の運びなど、原作の方が繊細で説得的である。

Shall We Dance?(初回限定版) [DVD]
公式サイトから

 リチャード・ギア扮するジョンが、通勤の途中で見た女性に惹かれて、ダンス教室に通うことになる。
この導入からして、原作の方が説得力がある。
原作では中年男性の存在証明といった、現代社会におかれた浮遊感や虚無感といったようなものが、社交ダンスへの切欠になっていた。
しかし、この映画では、単純に美人女性へのあこがれだけになっている。

 奥さんのビヴァリー(スーザン・サランドン)に、ジョンはダンスを内緒にしている。
原作ではその理由が、とてもよく説明されていたが、この映画ではよく分からない。
なぜ奥さんにダンスを習っていると言えなかったのか。
自分は幸せだったが、それ以上を望む自分を見せると、奥さんが悲しむだろうから、というのが理由だが、どうも説得的ではない。


 アメリカでも、社交ダンスはすでに古色蒼然としたもので、普通の人はやらないようだ。
ときどき入る現代的なダンス=ラップなどのほうが 、ずっと生き生きしているし、同時代的だ。
ラップを踊るのなら、何も隠れる必要はない。
古色蒼然たる社交ダンスだから、奥さんに内緒にしていたとしても、ダンスにのめり込む彼の情熱が伝わって来にくい。

 我が国と違って、社交ダンスはそれなりの伝統があるので、照れくさいだけでは通用しないのかも知れない。
また、ただ何となくという理由は、アメリカでは通用せず、論理的な理由を必要としたので、あのような説明になったのだろうか。
それは理解するが、そもそも中年男性の悲哀といったものが、この映画には欠けているので、主題を巡って大きくずれてしまっている。

 中年男性の悲哀といった主題を別にすれば、この映画は原作に忠実に作られている。
出演者に対する性格付けなども、原作とほとんど変わらないし、ダンス教室の美人コーチのポリーナ(ジェニファー・ロペス)とジョンの関係も、原作と同じである。
しかし、ここでもポリーナの落ち込んでいた理由や、イギリスでの競技会への道程なども、この映画では説得力を欠く。

 リチャード・ギアより役所広司のほうが、ダンスは上手かったし演技も上手かった。
彼はダンスを練習しただろうに、やっぱりダンスが下手である。
リチャード・ギアは本当に大根役者である。
彼はダンスが下手だと自覚しているだろうに、「シカゴ」といい、この映画といい、なぜダンス映画に出演したがるのだろう。
この映画では彼のダンスシーンが少なかったのが幸いだった。

 この映画で見るべきは、ジェニファー・ロペスの身体の美しさと、彼女のダンスだろうか。
彼女の大きなお尻が、実にセクシーに動く。
暗くしたスタジオで、彼女の身体がシルエットだけで表現される時、細いだけがスタイルの良さではないと知る。
彼女はブラジャーをしないで登場していた。
ノー・ブラにはやや歳をとってしまったようだが、スタイルの良さは見事である。

 ジェニファー・ロペスはあのスタイルを維持するためには、おそらく毎日とんでもない練習をしているに違いない。
元来がダンサーとして出発した彼女のことだから、日々の練習は苦ではないのだろうが、有名になっても練習を欠かさない姿勢は、やはり敬意を払うに値する。
決して美人ではない彼女だが、今日の人気は実力のなからしめるところなのだろう。


 フジ・フィムルが使われていた。
発色がよく、暖かい色もよく出ていた。
この映画の色は、コダックの得意とする色調だが、フジもなかなかに善戦している。
映画フィルムの選択肢が少なかったフジも、今ではコダック以上の選択肢があるのだろうか。
2004年アメリカ映画
(2005.04.28)

TAKUMI シネマ>のおすすめ映画
2009年−私の中のあなたフロスト/ニクソン
2008年−ダーク ナイトバンテージ・ポイント
2007年−告発のときそれでもボクはやってない
2006年−家族の誕生V フォー・ヴァンデッタ
2005年−シリアナ
2004年−アイ、 ロボットヴェラ・ドレイクミリオンダラー ベイビィ
2003年−オールド・ボーイ16歳の合衆国
2002年−エデンより彼方にシカゴしあわせな孤独ホワイト オランダーフォーン・ブース
      マイノリティ リポート
2001年−ゴースト ワールド少林サッカー
2000年−アメリカン サイコ鬼が来た!ガールファイトクイルズ
1999年−アメリカン ビューティ暗い日曜日ツインフォールズアイダホファイト クラブ
      マトリックスマルコヴィッチの穴
1998年−イフ オンリーイースト・ウエストザ トゥルーマン ショーハピネス
1997年−オープン ユア アイズグッド ウィル ハンティングクワトロ ディアス
      チェイシング エイミーフェイクヘンリー・フールラリー フリント
1996年−この森で、天使はバスを降りたジャックバードケージもののけ姫
1995年以前−ゲット ショーティシャインセヴントントンの夏休みミュート ウィットネス
      リーヴィング ラスヴェガス

「タクミ シネマ」のトップに戻る