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原作はデリケートな心情描写をした、文芸作品の香りが高いという。 医者で裕福、愛する美人の奥さんがあり、すべてが満たされた男が、倒錯した欲望を持つのは理解しうる。 しかし、強姦した相手の女性が、その男を愛するなどあり得ない。 映画になったら、男の身勝手な話になった。
ティモーテオ(セルジオ・カステリット)は外科医で、エルサ(クラウディア・ジェリーニ)という美人でスタイルの良い奥さんがいる。 エルサはジャーナリストで、日々の生活にも充実している。 2人は仲むつまじく、不満な点を強いてあげれば、彼には子供がいないことくらいか。 ある暑い日、彼の車が故障した。 近くの喫茶店にいた女性イタリア(ペネロペ・クルス)が、親切にも自宅の電話を貸してくれた。 電話を借りた後、どうしたことか彼は彼女を強姦してしまう。 ここは全くの突然の展開だが、これはありとしよう。 数日たって、彼は彼女の元へ謝罪に行く。 そして、また彼女を強姦してしまう。 映画ではきちんと説明されていないが、彼女は売春婦らしい。 何度か2人が出会ううちに、イタリアはこの男に惹かれていく。 そして、ティモーテオはこの女性が忘れられなくなる。 女性は売春婦だから、一時の性交を買っているだけなら、家庭内に波風は立たない。 彼は美人の妻に隠れて、不倫を続けることになった。 彼は金銭で割り切った関係ではなく、愛情を持ち込んだのだ。 当然に問題が発生する。 そうするうち、2人が同時に妊娠する。 その後、物語はお決まりのコースをたどることになる。 つまり非衛生的な中絶の後遺症で、イタリアは死んでしまう。 そして、15年後にアンジェラがオートバイ事故で、瀕死の怪我をする。 彼の元へと娘が運ばれてきて、イタリアを回想しながら、手術が進むのである。 そこで主人公の男性は、生命の生まれ変わりに、感慨にふける。 結局、強姦した末に愛情を勝ち取った女性が、中絶の後遺症から死んでしまい、男は15年たって娘の死にであって、死んだ女性を回想するという、とんでもない映画である。 恋は思案の外だから、どんな男女間にも恋愛は成立しうる。 だから売春婦と客の男のあいだにだって、恋愛が成立する可能性は充分にある。 そして、一度恋愛が始まれば、どんな男女であっても似たような展開をたどる。 美人の奥さんがいながら、売春婦と恋愛関係に陥る話はいくらでもある。 規則だった日常生活から、逃れたいという欲望も理解できる。 正邪の二面性を、人間が持っているのも理解する。 聖人君子が、汚れた世界にあこがれるのも理解できる。 しかし、強姦で始まった関係は、それ以上には発展しない。 映画監督は男性だが、原作者は女性なので、おそらく原作と映画はまったく違う主題なのだろう。 しかし、そうは言っても、映画監督と原作者は夫婦だというので、主題に変更に関しては留保が必要かも知れない。 そう考えると、観客に女性が多かったのも、ちょっと気になるところである。 アメリカの乾いた男女関係ではなく、イタリアには男女のあいだに官能的な情欲があるとはいえ、この映画には女性の自立を許さない空気がある。 近代化が進むと、好色さが性欲に変化してしまい、色っぽさが失われていくとは思う。 しかし、女性の自我を認めないこうした映画が制作されるイタリアは、日本と同様に本当に後進国である。 イタリアは今後、新たな情報文明が進展することはないだろう。 色調や物語の進み方が、ずいぶんとアメリカ映画と異る。 こっくりとした色彩で、肉食人種的な色は、それはそれなりに美しい。 建築中の巨大アパートのコンクリートが、躯体だけ剥き出しにされており、幾何学的な美しさが疎外感を表現していたのだろうか。 イタリアが住む家は、そのアパート群のなかにあり、コンクリートの無機質と好対照をなしていた。 2004年イタリア映画 (2005.04.13) |
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