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前評判の高かった映画だが、後半にかけてテンポが鈍くなり、ちょっと残念だった。 お金のかかった映画で、アカデミー賞を狙ったのはよく分かる。 しかし、長すぎるカットが目立ち、上映時間が3時間に近くなってしまい、観客の集中力を維持させることができなかった。
飛行家で大富豪だったハワード・ヒューズの伝記映画である。 ハワード・ヒューズを演じたディカップリオが、ぐっとスマートになって熱演した。 まだ若い彼は、天才肌の役者で、演技が実に上手い。 それはこの映画でも感じたが、男性の一生を演じるには童顔にすぎて、晩年の表情には無理があった。 好きな役者だが、ミスキャストかも知れない。 親の莫大な遺産を元に、彼は砂漠の真ん中で映画を撮る。 仮設の飛行場に並ぶ古い飛行機の数々、アメリカ映画でしか見ることはできないシーンである。 SFXで補われているらしいが、第2次大戦中の戦闘機が飛行する。 古い物がよく保存されていることに、いつも感心する。 しかも、それを映画で惜しげもなく使う。 他の映画だったが、古いメルセデスを衝突させていた。 あれには本当に驚いた。 彼は採算を考えずに、徹底的に凝って撮影を進めた。 雲が欲しいとなると、6ヶ月も撮影を中断して、雲の出現を待った。 その甲斐あって、完成した映画は大好評だった。 映画製作から、飛行機会社経営に乗り出し、一時の風雲児となった。 彼がこの映画を撮っていたのは、1927年のことで、しかも彼は21歳だったという。 現在の我が国では、堀江さんが話題になっているが、若い若いと言われる堀江さんですら31歳である。 21歳の若造に、あれだけの映画製作を許すアメリカの自由な空気には、本当に羨望を感じる。 伝記映画だから、主題を云々するほどのものはない。 彼が生きた時代と、飛行機の進歩、アメリカの躍動、そうしたものが画面から伝わってくる。 すでに名をなしたこの監督もイタリア系だから、新参者としての悲哀もあったろうが、稀代の大富豪にも思い入れがあったろう。 多くの住宅を壊し、おそらく怪我人も出たと思う。 しかし、彼は不時着したことで非難されはしない。 アメリカでは自作機も飛ぶし、高速道路に不時着陸しても非難されないそうである。 ウルトラ・ライトプレーンですら規制がらめの我が国とは、そのあたりの感覚が随分と違う。 戦争中に政府から資金を得たが、その見返りに飛行機を納品しなかったと、彼は上院の公聴会に呼ばれる。 そこで彼は、正々堂々と自己の信念を主張する。 史実がどうだったかは判らないが、自己の信念を率直に開陳する姿勢は、いかにもアメリカ的で、しかもそれを良しとする空気もアメリカ的である。 我が国の国会で、あんな発言をしたら、それこそマスコミがこぞって非難するに違いない。 中年から晩年にかけて、彼は精神病になやむ。 彼の行動は、いまなら精神病だと認識されているが、彼は人知れず悩んだことと思う。 病気だと知れば、その治療方法もわかり、対処のしようもある。 しかし、不可解な精神病では、なぜ潔癖なのか、自分でも自分の行動をもてあましたに違いない。 異常な行動によって、ホテルから立ち退きを迫られたら、ホテル全体を買い取ったという逸話を彼は持つが、精神の悩みはお金の多寡では推し量れない。 キャサリン・ヘップバーン(ケイト・ブランシェット)、エヴァ・ガードナー(ケイト・ベッキンセール)、ジーン・ハーロウ(グウェン・スティファニー)などなど、浮き名を流した女優はたくさんいたが、晩年は厳しかったようだ。 心の悩みからは、どんな大金持ちも逃げることはできない。 マーチン・スコセッシ監督は高名だが、未だ一度も受賞していない。 彼の実力などからすれば、この老監督に受賞させてもおかしくはない。 しかし、ケイト・ブランシェットには助演女優賞を贈りながら、アメリカ映画界は彼にグランプリを贈らなかった。 この選択は非常に公平だと思う。 蛇足ながら、ハワード・ヒューズは耳が遠かったらしい。 ツンボという言葉は、差別用語として使われなくなっているが、この映画の中ではさかんに「Deaf」という言葉が飛び交っていた。 また、ジプシーという言葉も、ロムに置き換えられることが多いが、外国の映画は平気でジプシーと言っている。 その言葉を使わなければ、差別がないかのように、言葉狩りをする我が国の風潮は、知的レベルが低いのではないだろうか。 言葉は文脈全体の中で判断されるべきで、単語の使用云々で差別をとやかく言うのはおかしい。 2004年アメリカ映画 (2005.03.31) |
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