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有名監督の作品だから、公開前から大宣伝であった。 劇場も大混雑で、この監督の人気の高さが判る。 いまや沢山の観客を動員できる数少ない映画監督である。
荒野の魔女(声:美輪明宏)によって、魔法をかけられた少女ソフィー(声:倍賞千恵子)は、一挙に年寄りに変身させられてしまう。 その後、魔法使いの青年ハウル(声:木村拓哉)を探して、誰もいない高原に歩き出す。 途中で案山子を道連れにして、とうとうハウルの住む「動く城」に、掃除婦として潜り込む。 ハウルはソフィーに気付くが、居候させることには何の抵抗も見せない。 結局、老女ソフィーとハウル、それに助手のマルクルと火の悪魔カルシファーが、ハウルの家で生活を始める。 この評論はいつも、映画を見終わって翌日か翌々日に書いているが、この映画に関してはストーリーの展開が少ないことに驚く。 しかし、後から考えるとハウルの役割や、戦争が行われている舞台設定など、何の説明もないことに気がつく。 ソフィーがハウルの家に押し掛けたのと、彼女がハウルに恋していることが、思い出される。 この映画の中で、ハウルの役割は一体何だったのだろうか。 ハウルはソフィーを知って、彼女を守るために闘うようになるが、そうのあたりの展開が不自然である。 各々のエピソードが繋がっておらず、展開が唐突である。 そして戦争のなか、愛が世界を救うという主題は、もう古い。 この映画は、戦争と逃げまどう庶民、それに敢然と立ち向かう正義の魔法使い、といった古色蒼然とした設定である。 戦争自体を憎む、つまり状況への考察をしないで、正義が登場するので、観客はとても戸惑う。 主人公のハウルに思い入れをしようにも、ハウル自身の闘うの理由が不明なので、どうにもよく判らないまま取り残されてしまう。 無前提的な戦争反対の主張は判るにしても、こうした硬直的で教条的な展開は、共産党の宣伝映画ではないかと勘ぐりたくなる。 外国人の原作を採用したアニメだが、原作とはずいぶんと違うようだ。 愛は世界を救うといった主題など、原作とはまったく関係ないらしい。 そうだろうと思う。 今日、こんな教条的な小説が、海外でヒットするとは思えない。 我が国では、愛は全面的肯定されるが、愛によって殺しもし殺されもする。 愛が地球を救うと言っても、たいした説得力はない。 しかし、イメージは定番化しており、彼の創造力もやや枯渇が見える。 それを彼自身も自覚しているので、原作に頼る原因にもなったのだろうが、すでに充分な実績があるのだから、もう引退したほうが良いように思う。 「もののけ姫」などのヒット作が続き、スタジオ・ジブリも大きくなってしまったので、彼の一存では引退できないのかも知れない。 としたら、表現者としては厳しい話である。「風の谷のナウシカ」「紅の豚」「もののけ姫」と、ちょっと数えても秀作が思いつく。 1941年生まれだから、すでに60歳を越えている。充分に活躍したと言える。 生きて老醜をさらすか、死ぬまで表現と格闘するか、今後の生き方が大変だろう。 成功した表現者ほど、老後の生き方は困難が伴う。 秀作をうんだ監督に敬意を表しつつ。 2004年日本映画 (2004.11.28) |
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