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気弱な父親と、勝ち気な母親(スーザン・サランドン)に育てられたイグビー(キーラン・カルキン)は、品行方正で優秀な兄のもと、屈折した子供時代を過ごしたと言うわけではない。 両親に問題はありながらも、それなりに育ってきた。 しかし、少年期の気まぐれが彼を襲った。 現代版「ライ麦畑でつかまえて」といわれるが、ちょっと違うように思う。
彼が高校から放校されるところから、物語は本格的に始まる。 父親はすでに精神に異常をきたしている。 そんななか、優秀な成績で高校を卒業し、兄と同様にコロンビア大学へ入れさせるのが、母親の夢だった。 しかし、彼は決まったコースにのれない。 高校から放校された罰は、士官学校への入学だった。 もちろん規則ずくめの士官学校に、彼があうはずもない。 彼にはすべてがある。 親はお金持ち、大人たちには可愛がられ、女性にももてる。 そんな彼は、名付け親のDHに可愛がられて、夏の間だけ彼の元で働く。 裕福なDHは、仕事も出来るが、愛人もいる。 彼は愛人にスタジオを無料で貸す。 そのスタジオに転がり込んだ、イグビーは女子大生スーキー(クレア・デインズ)との、恋愛を楽しむが、それとて上手くいかない。 いつの間にか、スーキーは兄にとられていた。 しかし、両者は絶縁状態になると言うわけではない。 虚実取り混ぜた大人たちの関係に、1人イグビーは子供を演じ続ける。 ガンで自分が命が短いことを知っている母親は、子供たちに自殺の手伝いをさせる。 そこで、自分の血縁の父親はDHだと知らされる。 良くできた兄と、外れていってしまうイグビー。 彼の脱線していく様が、甘酸っぱい青春として、画面に描かれる。 これと言った原因はないのに、彼は反抗的になる。 反抗的なところが、また大人から可愛がられるが、彼は自分の自意識をもてあましたままである。 豊かな社会でも、またそのなかで豊かな階級に属するがゆえに、自己の確立が困難になる。 かつては貧乏の克服が、絶対命令としてあったので、誰でも一生懸命に勉強した。 ドロップアウトは貧しさが理由だった。 しかし、今では豊かな社会であるがゆえに、確立すべき自己が見えない。 柔らかいナイロンネットに絡み取られたような圧力。 子供はそれに抗する術を知らない。 自我の確立が難しくなった現代である。 当然のことながら、問題は親にある。 この映画でも、戦力外となった父親は、母親から馬鹿にされている。 配偶者を蔑視するのを見て育つ子供は、人間を大切にする気持ちが起きようがない。 精神に異常をきたしても、一度は愛した伴侶であり、子供たちの父親である。 母親は子供より伴侶を大切にすべきだった。 伴侶同士が、互いに大切にしあうのを見て育てば、子供は決して親から離れない。 悪いことに、この夫婦は夫を蔑視するだけではなく、子供を有名校に入れようと叱咤激励した。 これでは子供は無事に育たない。 子供は存在するだけで許され、存在することが親の癒しであり、親の希望を子供に強制することは絶対に許されない。 この母親は人間愛を教えずに、利己的な上昇指向性だけを、子供に強いた。 これでは相対の世界に生きる子供は、可能性を孵化させることはできない。 「Igby goes down」という原題だから、もちろん主人公はイグビーであろう。 しかし、世間では立派な大人であっても、自分の願望を子供に強制することが、子供の成育にとって、いかに有害かいくら強調しても、し過ぎということはない。 立派な親に子供はかなわないから、よけいに子供は立つ瀬がない。 子供の虐待などが取りざたされているが、暴力それ自体が問題なのではない。 子供を独立した人格と認め、子供と台頭の人間関係を、築かないことが問題なのだ。 裕福な親は、立派な社会人であることが多いので、子供の立場は理解されない。 立派なご両親なのに、お子さんが困ったもので、さぞご心配でしょう、というわけだ。 イグビーの最悪の家庭環境に、心から同情する。 おそらく彼は一生にわたって、人間愛を探して旅を続けるだろう。 母親の罪は大きい。 家庭内暴力が犯罪として認知されたように、今後子供に対する精神的な虐待も、犯罪として立件されるかも知れない。 2002年のアメリカ映画 (2004.10.1) |
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