タクミシネマ       21グラム

21グラム 
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督

 ざらついた画面、短いカット、時間を前後させた構成など、
さまざまな手法を使って、生命の神秘を描こうとする。
制作者の意欲は理解するが、主題自体がやや古くなっている感じがして、感興が伝わりにくい。
21グラム [DVD]
公式サイトから

 人生の大半を刑務所で過ごしたジャック(ベニチオ・デル・トロ)は、出所して2年たつが、
今ではキリスト教に没頭して敬虔な信者である。
彼は本心から神を信じており、その熱心さに奥さんも、いささかあきれ顔である。
そんなとき、彼は男性とその子供を、ひき逃げしてしまう。
そして2人の子供は死亡、男性は死亡の直前に心臓移植される。

 心臓移植を受けるのは、数学者のポール(ショーン・ペン)である。
これが数学者にはまったく見えない。
物語としても、奥さんと確執があるので、なぜか訳ありに見えてしまう。
ひき逃げをした男と、心臓移植と来れば、両者が接近するのだろうと予測がつく。


この映画は、心臓移植にまつわる生命の神秘のが主題である。

 心臓の提供者がどんな人物だったか。
それに興味を持ったポールは、裏の手を使って、心臓を提供した男性の妻クリスティーナ(ナオミ・ワッツ)を探し出す。
医者をはじめ周りの誰もが反対するなか、失意にいる彼女に近づき、とうとう肉体関係まで結んでしまう。
心臓の提供者に興味を持つのは理解できても、その妻と肉体関係を持つのは不可解である。

 ポールの奥さんは一度中絶しており、不妊症になっていた。
人工授精で妊娠することを決意するが、彼は奥さんが中絶したことを知らなかった。
奥さんの中絶を知って、クリスティーナに執着していく。
当然のこととして、奥さんとの関係が崩壊していく。


 犯罪者の悔悟と信教、心臓移植と生命の不思議さ、
夫と子供を殺されたことへの復讐心と男性への恋愛感情、やはり不自然である。
それぞれに一本の映画なりうるくらいに重い主題である。
それを一本の映画の押し込んでしまったので、何が言いたかったのか判然としなくなった。

 悔悟した者が、改めて神の試練にあうといった主題は理解できる。
だから、ジャックが演じるこの部分には不自然さはない。
問題はポールが心臓提供者を捜し出し、奥さんを捨ててまで、
その遺族である女性に執着していくことである。
そのうえ、クリスティーナはポールが臓器の被提供者であると知ってからも、肉体関係を続ける不思議さである。

 心臓提供者を知りたいという気持ちは理解できても、
交通事故の加害者への報復に繋がっていくのは理解できない。
人間は死ぬと、21グラム軽くなるという。
その21グラムに、霊がこもっているかのような表現で、このあたりも理解を超えていた。
メキシコ人のクリスチャン監督が、キリストに捧げる映画を撮ったのだろうが、
映画としては未整理としかいいようがない。


 ジャック役のベニチオ・デル・トロは、はまり役だった。
しかし、ナオミ・ワッツの品のなさが、ちょっと異常なほどだったし、
彼女が作ってきた家族と不釣り合いだった。
そのうえ、ショーン・ペンを数学者にしたのは、ブルース・ウィルスの医者より、はるかにミスキャストである。
 2003年のアメリカ映画
(2004.09.03)  

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