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なかなかに複雑な仕組みの映画で、途中で一度種明かしがあるが、それもかえって複雑さを増す要因になっている。 映画全体の流れと、冒頭に登場する死刑囚マルコム(プルイット・テイラー・ヴィンス)との結びつきが弱いので、簡単に騙されてしまう仕掛けである。 最新というほどではないが、 多重人格を扱って恐ろしいミステリーに仕上がっている。
大雨の中、わがままな女優を乗せた車が、女性をはねる。 彼女は、夫がパンク修理する車の隣に立っていたのだ。 彼女をはねた運転手のエド(ジョン・キュウーザック)は、休職中の刑事である。 救急病院へと連れて行こうとするが、大雨の中、携帯電話が電池切れで交信不通になり、近くのモーテルへと避難する。 若い男女の車も、雨で立ち往生した人を拾って、仕方なしにモーテルへ来る。 そこへ囚人護送中の刑事ロード(レイ・リオッタ)も、宿を求めて宿泊に来る。 殺された彼等の近くには、必ず部屋の鍵があった。 殺されるに従い、最初は10、次は9、と徐々に数字が減っていく。 数字が減っていくのは、殺される事件と同じ順序だった。 残った人間たちが、それに気づいたあたりで、種明かしがあるが、 映画はそれでは終わらない。 最近のアメリカ映画は、簡単には終わらず、もう一度のオチがある。 生き残ったパリス(アマンダ・ビート)が、彼女の希望通りフロリダのオレンジ畑にいると、モーテルにいた子供が殺しにやってくる。 そのとき彼女が指先に見たのは、モーテルのルームナンバー1の鍵だった。 結局、連続殺人を起こした死刑囚は、多重人格者であり、モーテルでの殺人事件は、全て彼の精神作用の結果だった。 つまり、彼の頭の中での話だから、死体がなくなったのも自然だったのである。 ここで最初のマルコムの話しに戻る。 明日に死刑執行を控えたマルコムは、多重人格であることが判明した。 多重人格は精神病であって、死刑にできないから、明日の処刑は中止すべきだ、と弁護士はいう。 ここで話がつながる。 マルコムの分身ともいうべき内部の人間を、全て殺したので、今や彼は多重人格から解放され、安全になったという。 これももう古い。 「心的外傷と回復」を書いたジュディス・ハーマンの威光が地に落ちた今では、この説明自体が信憑性を疑わせる。 そう言った意味では、映画自体も最新の感覚というには、ちょっと首を傾げたくなるところもある。 「17歳のカルテ」の監督だから、この手の作品が好きなのかも知れないが、プロデューサー・システムのアメリカでは、あまりえり好みできないだろう。 大雨での孤立、荒野にあるたった一軒のモーテル。 そこに集まる訳ありの人々、外界との交信が途絶えた。 これで何か起きない方が不思議である。 ここまで極限的な設定は、最近のアメリカ映画では不自然である。 サイコ・サスペンスというには、もっと普通の状況で、恐ろしい出来事が起きてほしい。 この映画が、特異な状況に負っているだけだと感じさせるのは、時代との絡みの中で主題が熟成していなからだろう。 現代の精神状況を、映画の舞台として使うのではなく、狂気が必然であると描くところが違うのだ。 この映画は、多重人格を映画のネタに使ったに過ぎず、多重人格が必然的に生じること自体に思い入れがない。 だから、単なるミステリーにしかならなかった。 子供を殺人犯人に仕立てるあたりは、最近のアメリカ映画の子供に対する視線の反映だろう。 子供に殺人をさせるのは良いが、途中で子供の不自然さが目立ち、最後の結末が予測できてしまった。 それと、ジョン・キューザックだけが有名俳優だからか、彼の正義ぶりというか主人公性が際だっている。 相手役の迫力に欠け、物語全体の滑らかさにやや難がある。 ミステリーだから、単に恐ろしければ及第点だが、このサイトが賞賛するには、ちょっと力不足である。 表現者というのは、一度できたスタンスは簡単に変えられるものではない。 この監督は、力はあると思うが、たぶん今後もB級監督のままだろう。 そう言った意味では、才能とは恐ろしいものだ。まさにギフトである。 ずいぶんと酷評をしてしまったが、見て損をしたという映画ではない。 2時間は充分に楽しめ、入場料を返せとは言わない。 2003年アメリカ映画 |
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