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面白い映画を作るのは、本当に難しい。 「マルコヴィッチの穴」があたっても、次作が面白いとは限らない。 この映画は、実話からいくつかの話を引用して、それを組み立てて成り立っている。 完全なフィクションが難しいのはよく分かるが、やはり虚構を創る努力をすべきだろう。 神に代わるその創造力に、観客は賛美を送るのだから。
スーザン・オーリアン(メリル・ストリープ)の書いた「ランに魅せられた男」の脚本が、リチャード・カウフマン(ニコラス・ケイジ)に依頼される。 すでに実績のある彼だったが、今回は書けない。 とにかく構想が沸かない。 一緒に住んでいる弟のドナルド・カウフマン(ニコラス・ケイジ)も、脚本家になろうとし、ハリウッドのプロデューサー(ブライアン・コックス)が主催する講座に通う。 ドナルドは陽気で楽天的で、たちまち脚本を仕上げる。 女性(カーラ・シーモア)が言い寄って欲しいと、明らかな信号を送っているのに、彼は迫れない。 とにかく自己嫌悪の固まりになって、落ちこんでいる。 そんな展開で進むので、書けない作家の心理劇かと思っていると、後半になるとサスペンス映画に変身である。 前半と後半がまったく別の調子で、完全な失敗作である。 書けないリチャードの苦しみを前に、瓜二つのドナルドが寝転がったり、気楽な格好で表れる。 双子の兄弟と言うことなのだろうが、リチャードの自己嫌悪が強調されるので、ドナルドは彼の反対の人格を表す架空の表現かと思っていた。 しかし、徐々に実在感を表し、何と最後にはドナルドがスーザンに面会してしまう。 そして、スーザンの秘密をつかんでくる。 彼女は自分の本には、そんなことはまったく出さなかった。 スーザン・オーリアンも実在なら、ジョン・ラロシュも実在である。 もちろん「ランに魅せられた男」という本も出版されている。 現実のスーザンも、ニューヨーカーの記者だが、映画の中では麻薬中毒になっているし、殺人まで犯そうとする。 実在の人物を、こんな風に描いても良いのだろうか。 原作というアイディアをいただきながら、ちょっと酷い描き方にも思える。 汚れ役のスーザンを、メリル・ストリープが演じているのは驚きである。 ドナルドの恋人役を、マギー・ギレンホールが演じている。 彼女は今売り出し中で、人気街道を上昇中だが、彼女もまた不美人である。 いまやアメリカ映画では、美人か否かは、ほとんど問題にならなくなっている。 この映画でも、男性と女性の扱い方が、ほぼ完全に同じである。 アメリカのフェミニズムは、ほんとうに凄いところまで到達しつつある。 話題が散漫なために、後半になってどっと崩れてしまったのだろう。 前半では、厳しい心理劇を展開していながら、サスペンス映画へと転じてしまったのは悪いことではないが、こうした顛末を監督は予期していないだろう。 むしろ、「マルコヴィッチの穴」の続きとして、孤独と自分探しという主題を追求したかったのだと思う。 先鋭的な主題を持続するのは難しいことだ。 この作品を失敗作だと言っても、けっして最悪の評価をしているわけではない。 失敗とは成功への一里塚に過ぎない。 きちんとした主題をもった監督だから、今後を楽しみにする。 2002年アメリカ映画 |
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