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マイナーな映画には捨て難い味があるのだが、それも映画としてきちんと成り立っていこそである。 映像美を主張する映画であれば、主題にはそれほどこだわらない。 しかし、この映画のように表現方法に見るべきものがないと、いったい何のために制作されたのか皆目分からない。
同棲していた恋人が、突然に自殺した。 残されたモーヴァン(サマンサ・モートン)はただ呆然とするだけ。 それはそうだろう。昨日までなんでもなかった恋人が、帰ったら自殺していたというのでは、どう対応して良いか分からなくなる。 しかし、当惑した彼女は、恋人の身体を切り刻み始め、荒野に埋めてしまう。 そして、パソコンに入っていた小説を、自分の名前で出版社に送る。 恋人の口座からお金を引き出すと、友達のラナ(キャスリーン・マクダーモット)を誘って、スペインへと旅立つ。 ラナは普通に男と遊ぶつもりで、男を軟派して楽しくやる。 モーヴァンも軟派するが、相手の男は母親が死んだという電話を受け取っていて、ひどく動揺し落ち込んでいる。 それでもしっかりセックスをする。 そして突如、ベッドに男といるラナを引っ張って、田舎へとタクシーを走らせる。 スペインから出版社に電話を入れると、編集者がとんできて、10万ポンドで出版契約が結ばれる。 イギリスに戻ってみると入金されており、彼女はそれをもってラナを誘って、再び旅に出ようとする。 しかしラナには断られ、一人で駅に向かって映画は終わる。 不条理映画のような仕立てだが、単なる逸脱にすぎないように見える。 この映画の設定は無理である。 小説を書いて自殺する男性の恋人が、スーパーの女店員だというのは、情報社会では少ない話だろう。 小説を志望するものが、自己表現のためにモラトリアムの人生を送っていても、同棲する相手にも同質の資質を期待するはずである。 この映画の主人公のように知的な世界に興味がないというのでは、恋人関係になり得ない。 突発的に発生した事件に対して、突飛な反応をするにしても、彼女に潜在的にマニアックな資質がないと無理だろう。 この監督は、自殺された女性の心理を描きたかったのだろう。 自殺するという男性の身勝手さを、女性が解消する困惑を描いているように見える。 しかし、どんな人間関係にも、一般的な設定というのはあり得ず、男女が恋人になるのは両者に関係があるからだ。 唐突に与えられた設定を一般化し、それからの女性の行動を不可解なままに描いても、観客は画面に同一化できない。 人物設定というか人物描写、つまり人間観察に浅はかな理解しかなく、もっと素直に現実の人間を観察するべきだ。 母親が死んだ電話をもらった男性の描写も月並みだし、ラナにしても単なるミーハー娘に見える。 だからむしろ、ラナが今の人生に満足していると言う台詞に、リアリティを感じてしまう。 監督はモーヴァンを肯定しているにもかかわらず、監督の思いを観客は否定的に見ざるを得ない。 あまり評価していないだろうラナの方に、むしろ共感してしまう。 時代から外れるにしても、モーヴァンの行動には共感がわかない。 イデオロギーだおれの映画だと言っても良い。 イデオロギーがきちんと消化されなければ、このサイトでは評価しない。 カラー発色の不統一といったこと以外にも、フェードアウトの多用がシャープさを削いでいるし、台詞の少なさもマイナスに影響している。 思わせぶりなシーンが多く、場面のつながりにも必然性が欠ける。 それとスペインの自然を賛美するのは良いが、ただイギリスにないものを賛美しているように感じる。 この感覚は、むしろスペインへの差別意識の裏返しであろう。 我が国の女性たちが、途上国の自然を賛美しながら、水洗トイレでなければ生活できない、というような矛盾をこの映画から感じる。 カンヌでは評判が良かったらしいが、エキゾティシズムの大好きなカンヌでは受けるかも知れないが、時代の最先端で格闘している表現者には無縁の映画である。 2002年イギリス映画 |
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