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歳がいって衰えてきたので、殺し屋家業から足を洗おうとしたフィリックス(ステラン・スカルスガルド)だが、組織は引退を許さない。 反対に、裏切り者として命を狙われる。 しかし、彼が育てた若い後継者ジミー(ポール・ベタニー)が、陰になりながら彼を守ってくれる。 引退したフィリックスの新しい仕事は、33歳まで家の中にいたババ(クリス・ペン)という、子供大人の子守だった。
話の筋は大した意味はない。 この映画の見るべき所は、時代の設定と脚本であろう。 やくざたちの乗っているのがシトロエンのDS21だし、フィリックスが乗っているのはメルセデスの280SEである。 フィリックスは大きな携帯電話をもって登場する。 時代は女性の台頭が本格化する前、つまり1960年代である。 60年代というのは、様々な動きが新たな突出を目指して胎動していた。 カウンターカルチャーと呼ばれた運動が、様々な分野で試行錯誤していた。 今から見ると、多分に保守性を含みながらも、そのエネルギーは途方もなく大きかった。 そうした時代への興味を、若い監督が再構成したのが、この作品である。 奇妙な映画だが、それなりに面白く仕上がっている。 しかし、若い人が過去を再構成するのは、半ば創造と呼んでも良いかも知れない。 古い時代を扱っていながら、懐古臭はまったくなく、60年代がすでに歴史になっているように感じる。 別の時代のなかで、現在的な問題関心を再構成することによって、現代をくっきりと浮かび上がらせる、そんな感じである。 突然に登場するキッチュな色彩、断絶された大人子供の人生、妊娠をきっかけに別れようとする女性、男らしさに拘るダンディズムなどなど、再構成されている話題が、現代からはめ込み直している。 コメディタッチではあるが、充分に考え込まれた脚本で、イギリスの表現活動の情報社会的な共通性を感じる。 現代的な問題意識の追求は、シリアスな設定にしてしまうと、破綻が生じやすいから、コメディにしたことは正解だろう。 やくざな組織が、どうやって生計を立てているのかまったく不明だが、それ以外はやけにリアルな生活者たちである。 同様に、生まれてから33年間、一歩も外に出たことのないババの設定も、人間を純粋培養することの否定として肯首できる。 子供だったババは、子守役のフィリックスの行動を見て、真似をしながら大人になっていく。 現代社会では、いささか時代錯誤なマッチョさを、フィリックスから受け継いだババは、男性の優しさと稚気性を充分に表現している。 快楽の素直な肯定が、人間性の肯定だった時代への名残だろうか。 かちっとした仕立ての背広、中折れ帽子、長いコート、くわえ煙草にストレートのウィスキー、ジルバに読書、すでに忘れ去られたものばかりである。 60年代を生きるフィリックスにとっては、自分の子供など考えもつかなかったであろうが、恋人のシェリー(ジャクリーン・マッケンジー)は妊娠中である。 ババとの出会いによって、フィリックスは子供の意味を知り、50歳で父親になる決断をする。 今日に引きずる問題のほとんどが、60年代に登場したと言っても良いが、60年代は子供の問題だけが抜け落ちていた。 それは60年代自身がいわば子供であり、次世代を考えに入れるほどに熟成していなかったからだろう。 60年代の解放は、性の世界に及びはしたが、それは自分たちにとって性の快楽の肯定であり、子供を持つことへの肯定ではなかった。 もっといえば、60年代は自分のことを考えるのに精一杯で、他人格=子供に思いをはせる余裕はなかった、というのが正直なところだろう。 決してハード・ボイルドを肯定していないし、古いものを良しとはしていない。 フィリックスの古いハード・ボイルドから、監督は自分の目で取捨選択をし、情報社会の人間関係をつくる。 「ゴースト ワールド」が描くような孤独を、何によって救うかを考えているように感じた。 60年代という古い時代を舞台としながら、この監督はそこから何を拾ってくるのか、相当に自覚的である。 少子化も60年代の置きみやげだろうが、ババという大人子供を登場させて、子供問題が考察されている。 女性が生むことに拘るのは、古いままである。 恋人のシェリーは解放された女性と描かれてはいるが、彼女の生き方は男性から見たものだ。 女性映画監督たちは、女性の孤独から先を描いてはいない。 女性たちが異議申し立てをしたが、女性たちはいまだ新たな価値を提出していない。 次世代という時代の枠組みは、またしても男性によって担われるのだろうか。 フィリックスの父親の死んだふりが、とても愉快だったし、いろいろと登場する部屋が独特の色調で、楽しかった。 イギリス映画の元気さを見る思いだったが、フィリックスもジミーもハッピーエンドになっているのだから、最後にババを殺さなくても、きれいにエンディングできたように思う。 2000年イギリス映画 |
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