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ニューヨークはマンハッタンでの話。 弁護士のギャビン(ベン・アフレック)は、高速道路で接触事故を起こした。 急いでいたので、連絡先と白紙小切手を渡して、その場から強引に立ち去ってしまった。 相手方のドイルも急いでいたのだが、ドイルの車は事故のため動かなくなった。 そのためドイルは、大切な法廷に遅刻して、子供との面会権が妻ヴァレリー(キム・スタウントン)にいってしまった。
ギャビンは事故のときに、大切な書類を現場に置き忘れたことを、裁判所に着いてから知る。 その書類がないと、彼の所属する事務所は、莫大な賠償金を支払わなければならないし、彼は詐欺罪で刑務所に入ることになる。 焦った彼は、ドイルを探し当て、書類を返してもらうべく奔走する。 彼を捕まえることはできたが、子供との面会権を失ったドイルは、ギャビンを恨んで書類を渡さない。 これだけなら単純な話だが、じつは書類の作成にあたっては、隠された事実があった。 ギャビンのボスであるデラーノ(シドニー・ポラックス)が、150万ドルの横領をしていた。 その書類を裁判所に提出しさえすれば、横領が隠蔽され、ボスの犯罪が問われることはない。 だから是が非でも、ボスは書類を提出させたかったのだ。 しかし、紛失したことによって、ギャビンはその背景を知ってしまった。 この映画でも、ボスはギャビンに代わって書類の偽造してしまう。 それでも弁護士の活動は、社会のためになっている、とボスは自負する。 そうした現代アメリカ社会に対する批判が根底にあり、そのなかで多少は正義感のある弁護士が、苦闘する様を描いてなかなかに見応えがある。 この映画の優れているところは、二人の主人公が完全な正義と悪の対立としては描かれず、弁護士も多少の悪を含んでおり、被害者となったドイルも多少の悪をもっていることだ。 悪人というより、両者とも普通の人である。 正義と悪が同居したのが人間だとすれば、この映画の主人公たちは、まさに普通の人である。 善悪の二項対立的な設定をしなくても、物語を充分に成立させているところに、脚本のうまさをみる。 ギャビンはボスの娘と結婚しており、その妻も弁護士が正義の味方だとは思っておらず、裕福な生活をするためには、ギャビンに書類の偽造を促す。 またギャビンは、事務所の弁護士ミシェル(トニ・コレット)と不倫の関係にあるが、妻は裕福な生活のためには、ミシェルとの不倫を黙認している。 したたかな人たちである。 そして、ギャビンは書類を取り戻すために、ハッカーを使ってドイルの銀行データーを消してしまう。 ドイルはアルコール依存症で、セラピーに通っており、辛うじて断酒をしている。 素行に問題が多く、奥さんに愛想を尽かされて、離婚訴訟の最中である。 彼は何かとトラブルの多い人間で、今回の書類もすぐに返せば良いものを、なんだかんだと言って返さない。 この手の映画は、結末が予測できることが多く、観客は結末への過程を楽しむことになるものだが、この映画は最後までどうなるか判らない。 結末が判らないなかで、焦りまくるギャビンと、憔悴しきったドイルの対比が、物語のコントラストをはっきりさせしている。 ギャビンとドイルのそれぞれの立場が交互に描かれ、二人の事情が同時進行していく。 その背景になる現代生活の複雑さも、きっちりと描き込まれており、肯首できる展開である。 星一つを献上する。 ドイルを演じたサミュエル・l・ジャクソンは、くたびれた黒人を演じて、実に上手かった。 最後に雨の中でたたずむシーンでは、嬉しさと驚きとやるせなさが混じった、何とも言えない雰囲気がよく出ていた。 また黒人の置かれた状況や、ニューヨークの荒廃した様子が、公衆電話が壊れていることなどから、さりげなく描き込まれている。 そんな馬鹿なといった場面が少なく、とても丁寧な脚本である。 しかも、ギャビンを演じるベン・アフレックの演技が下手なため、会話のやりとりを楽しむという意味では興ざめである。 いまは売れっ子のベン・アフレックだが、このままではハリソン・フォードのように、有名だが大根役者という将来だろう。 ところで、製作者たちからは外れるが、ちょっと気になったのは、字幕の翻訳が意訳に過ぎることで、例えばポートランドに行くというのをオレゴンに行くと訳していたが、ヴァレリーがポートランドは良い街だといっているのだから、あれでは意味が通じないだろう。 蛇足ながら、弁護士ギャビンの乗る車がメルセデスで、貧乏人ドイルの乗る車がカローラだった。 弁護士の乗る車がセルシオで、貧乏人の乗る車がルノー5やゴルフになる日は、一体いつになるのだろう。 おそらく経済的な優位さだけではなく、文化的な成熟と洗練を実現して初めて、車にも車格が与えられるのだろう。 ところで、そんな日が来るのだろうか。 最近では珍しくワイドスコープの画面をつかっており、スクリーンのバランスはやや悪く感じたが、画面の構図はシャープである。 おそらく大きな劇場での上映を前提にした製作であろうが、シネコンの多い今日では不利ではないだろうか。 この映画でも、第二アシスタントに日本人が登場していたが、名前は読み切れなかった。 2002年アメリカ映画 |
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