タクミシネマ         アザーズ

アザーズ   アレハンドロ・アメナ ーバル監督

 1945年、イギリスの孤島での話。中年の女性グレース(ニール・キッドマン)が、小さな子供アンとニコラスとともに、大きな屋敷に住んでいた。
子供たちは光に当たると肌がふくれて、やがて死んでしまうという光アレルギーだった。
そのため、彼女はすべての窓に厚いカーテンをつけ、昼でも室内を暗くしていた。

アザーズ [DVD]
前宣伝のビラから

 ある日、3人の男女がやってくる。
女中頭(フィオヌラ・フラナガン)、庭師の男性、それに下働きの若い女性だった。
グレースは求人広告をだしていたこともあって、直ちに3人を採用する。
その大きな屋敷には、不思議な物音がした。
最初のうちは、娘のアンがそれを言うだけだった。
やがて、アンは人影を見たとも言い出す。
ある時には、ピアノまで鳴り出す。
しかし、グレースには何も見えない。

 ある時、すべての部屋のカーテンがなくなっていた。
それをみたグレースは狂気のように叫んで、子供たちのもとへ駆け寄り、子供を暗いところへと連れて行く。
その出来事を冷然と見守る3人を、グレースは激興しながら解雇する。
すると屋敷の一室から人の気配がした。
そこには5人の男女が、車座になって会議中だった。
その会議の結論は、彼らはこの屋敷から出ていくというものだった。


 サスペンス映画のネタあかしはルール違反かもしれないが、車座になっていた5人が生きている本当の人間だった、というのがミソである。
現世の5人家族がこの屋敷を買ったが、物の怪がとりついているようだから、屋敷を出ようとしていたのだ。
ということは反対に、グレースは死んだ人間と言うことである。
女中頭ら3人は霊界から、グレースを説得にやってきたのだった。
種明かしをされれば何ということはない。

 こうしたサスペンス物は、仕掛けが大切である。
観客に錯覚でも良いから、製作者たちの敷いたレールにのせることだ。
話の展開を観客に疑わせることなく、どうなるのだろうと話に引きずり込めば成功である。
オープン ユア アイズ」では、優れた手腕を見せた監督だが、妙な割り切れなさを持ったまま物語は進行してしまうので、この映画はそれほどの成功作ではない。

 グレースがなぜこの屋敷に住んでいるのかが、充分に説明されていない。
以前いた使用人が突然消えたというが、それももっと謎めかして観客に刷り込むべきである。
3人の登場の仕方も唐突だし、その採用も簡単に過ぎる。
出征した夫のチャールスが突然現れるが、グレースら3人の経済生活はどうやって成り立っているのかと、この映画には最初から疑問が多い。
こうした疑問が物語への没入を妨げている。


 ニコール・キッドマンが絶叫するばかりで、細かい演技をせず、1人で浮き上がってしまっている。
他の人たちが、押さえた演技をしているだけに、彼女の演技が目立ってしまう。
彼女は上手い役者だから、この浮き上がりは彼女のせいというよりも、演出のせいだろう。

 監督がカソリックの強い南米出身者だからかもしれないが、聖書の言葉がたくさんちりばめられるなど、善悪の対立がやや定型に過ぎる。
物語の背景として善悪を使うのは良いが、物語の主題にまでからんでくると、カソリックの善悪では通用しない。
死んだグレースの死にきれない感情が、この映画のネタだったというのは、迷わず成仏できなかったという話になってしまう。

 サスペンス映画で、観客に疑問をもって見させたら失敗である。
ぐいぐいと展開に引きずり込み、有無を言わせず物語に没入させる力業が不可欠だ。
前作が当たったので、出資者が出たのだろうが、この監督の資質とは違った物語である。

2001年のアメリカ、スペイン映画   

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