タクミシネマ        ロード オブ ザ リング

ロード オブ ザ リング   ピーター・ジャクソン監督

 トールキン原作の「指輪物語」を映画化したもので、膨大なお金がかかっている。
原作は広く読まれたので、気合いを入れて制作されただろうが、残念ながらおもしろくなかった。
その理由は、エピソードが総花にすぎたこと、説教的なシーンが多く、物語が自然に流れていないことである。
それに3時間をこえるのは、何といっても長すぎる。
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劇場パンフレットから

 この映画の物語は、悪の欲望をもつ不思議な指輪を、創られた場所へと返しに行く道中記である。
長い間、指輪はホビット村のビルボ(イアン・ホルム)がもっていたが、彼はフロド(イライジャ・ウッド)に指輪を返すように託す。
フロドはサム(ショーン・アスティン)、ピピン(ビリー・ボイド)、メリー(ドミニク・モナハン)をともなって、ホビット村を出発する。
正義の魔法使いガンダルフ(イアン・マッケラン)がフロドを守るが、悪の魔法使いサルマン(クリストファー・リー)がその行く手を邪魔する。
もちろん狙いは、指輪である。

 ファンタジックな童話を映画化するのは、SFXが発達したおかげで、たやすくなった。
この映画でも、小柄なホビット人たちと、大柄なガンダルフや他の種族の人たちを、違和感なく同居させていた。
最初はやけに寸詰まりな人だと思っていたら、それは身長が1メートルちょっとのコビト族だったらしい。
もとの俳優を知っているだけに、不思議な光景だった。
こうした芸当は、SFXだからできるのだろう。


 雄大な景色のなかに、人工的な造形物をはめ込むのも、実に自然に演出されており、SFXの見事さを存分に伺わせた。
それと同時に、細かい演出にも、配慮が行き届いている。
指輪を見せるときには、どうしても指と一緒に爪が写されてしまうが、黒く節くれだったいかにも農業労働者の爪だった。
美しい指輪に無骨な指ではそぐわないから、指は美しく見せたくなるものだが、このあたりの執念は立派である。
 
 技術がいかに進歩しても、映画のおもしろさを支えるのは、人間の想像力である。
天国や地獄といった、絶対の正義もしくは悪を表現するのは、表現技術よりもどんな景色を描くかにかかっている。
地獄は恐ろしい場所としても、その恐ろしさは人間の想像を超えることはできない。
天国や地獄が、どこかで見た風景の組み合わせにならざるを得ないのは、仕方ないことだろう。

 この映画には、たくさんの引用や象徴があるとは思う。
また、難しい解釈もなりたつだろう。
こうしたファンタジックな映画に、理屈を並べても詮方ないが、おもしろくないのだから仕方ない。
どんなに深く考えられていても、映画はまず娯楽である。
とくにファンタジックな映画こそ、楽しく見たいものだ。
そう考えると、この映画は退屈きわまりなかった。


 まず、主題が古い。
不思議な指輪を返す旅とはいえ、一種の正義を実現する旅である。
なぜこんなことを引き受けたのかと、フロドは何度も後悔するが、彼は毅然とこの旅を完遂する。
自己犠牲のパターンは、地球を救うために自己を捧げる宇宙戦艦大和である。
もっといえば、大日本帝国を救うための特攻隊である。
自己犠牲を讃えるのは、不健康でしかも古い。

 この映画に登場する女性は2人だけで、あとは男性ばかりである。
しかもその女性も、女王(ケイト・ブランシェット)と王女(リブ・タイラー)という、典型的な女性役割で、いささか時代感覚を疑う。
子供が見るであろうこの映画なら、主人公を男性にしたら副主人公女性とか、主人公を女性にしたら福主人公は女性といった配慮が必要だろう。
フロドは強い男性ではないので、女性でも充分に可能である。
「風の谷のナウシカ」のような例もあるのだから、女性が主人公でもまったく不都合はない。

 展開についていえば、格闘のシーンが多く、残酷にすぎる。
SFXとはいえ、たくさんの首が飛んだり、胴体が割れたりするのは、あまり肯首できない。
しかも生身の人間の格闘ではないから、リアリティがないにもかかわらず、残酷さはかわらない。
かえってリアリティがない分だけ、始末が悪い。


 格闘シーンに、多くの時間が食われている。
悪が暴力で襲いかかるのは判るが、単調な格闘シーンが多すぎた。
SFXは長所ばかりではない。
大群衆を簡単に作れることから、戦場でのシーンに兵隊をたくさん登場させすぎる。
指揮や命令系統もなしに、無数の兵隊が激突する戦争などあり得ない。
膨大な兵隊の登場が簡単なので、つい誘惑に負けるのだろうが、もっと事実に忠実にあるべきだ。

 全体にもっとシーンを短くすべきで、監督が情感を込めたいのは判るが、それがかえって押しつけになっている。
もっとあっさりと見せたほうが、主題がよりよく伝わる。
雄大な雪山のシーンにしても、河のシーンにしても、ちらっと写せば意味は通じる。
また無言で抱き合いシーンなども、もっと短くすべきである。
細かいことだが、矢をたくさん射ったはずなのに、登場するたびにたくさんの矢を背負っていた。
どこで補給したのだろう。

 この映画でもフジフィルムが使われており、最近ではメジャーの映画にもフジが進出しているのがよくわかる。
SFXや細かい技術的な配慮には感心したが、すでに制作されている第二部、第三部は、同じセンスであろうからもう見に行かない。
有名な原作でも、映画化の処理次第である。

2001年のアメリカ・ニュージーランド映画   

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