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野生に生活していた人間が、社会化してしまった。 人間は動物の一種であり、自然界に生活するものだ。 非人間的な近代社会から自然へ帰れとは、ルソー以来しばしば聞く話である。 自分を類人猿だと思っている男性と、宇宙一毛深い女性、それにネズミにテーブルマナーを教えようと強いる学者が、出会ったらどういうことになるか。 この映画にはもう一人、研究助手として古典的な女性が登場する。
映画は3人の告白形式で始まる。 まず毛深い女性ライラ(パトリシア・アークエット)が、刑務所に収監されている。 学者ネイサン(ティム・ロビンス)は殺されて天国の一歩手前である。 猿だと思っていた男性パフ(リス・エヴァンス)は、きちんと洋服を着て公聴会で証言している。 何のつながりもないシーンで始まるが、やがて三人の関係が解きほぐされていく。 毛深い女性ライラは、男性に見向きされないと思って、世を離れて自然の中で生活する。 それを本に書くとベストセラーになり、まだ世の中に未練はあったので、入ってきた印税で脱毛にかよう。 すると脱毛士ルイーズ(ロージー・ペレス)が、ネイサンを紹介してくれる。 2人は意気投合して結婚する。 自然の中に出向いた2人は、そこで裸のパフに出会う。 ネイサンはパフを研究室に連れてきて、彼に人間の文明を教え込む。 首に付けた電気ショックが、パフを正しい行動へと導く。 このシーンは笑えるが、なんだか悲しくなる。 とりわけ異性に欲情することをコントロールさせる教育は、ネイサンと助手のガブリエル(ミランダ・オットー)が、パフのまえでセックスをしているので、なんとも皮肉である。 人間は猿の前でセックスをしても良いが、猿は人間の前でセックスをしていけないというのだ。 自然から離れてしまった人間への批判が出発点で、アメリカ女性の自立ぶりとフランス女性の男性迎合姿勢が対比されたり、アメリカ人のフランス・コンプレックスが披瀝されたりと、ブラック・コメディといった仕立てになっている。 人間社会に適合したパフが、人間以上に哲学的になり、彼の口から難しい単語が次々と飛び出す。 また、フランス語の発音は、ネイサンよりも良いという皮肉である。 ネイサンはガブリエルに、ライラと私のどちらをとるのかと迫られる。 ライラと離婚できないというと、彼女は助手をやめてしまう。 すると、ライラは自説を曲げてまで、ネイサンの助手になる。 ネイサンに尽くすために、自分を偽って魂を売るという。 自分に正直なことを最上とする、このときの台詞がいかにも、アメリカ的だった。 この映画が一ひねりされているのは、猿の人間社会化だけではなく、適応した猿をふたたび自然へと戻すことである。 ネイサンに愛想を尽かしたライラは、パフを自然へと連れ戻す。 それが彼女の自然作家としての良心だった。 しかし、ライラに思いを戻したネイサンが追いかけてきて、彼女に復縁を迫ると、パフはネイサンを殺してしまう。 公聴会では自然へ戻れと、人間社会への批判を述べたパフだが、一度人間社会を知ってしまったので、人間社会の良さが忘れられない。 だいたい裸で生活するのは、寒くてかなわんし、セックスは気持ちいし、フランス料理はおいしいというわけである。 主題はとてもおもしろく、良い着眼だと思う。 何度ものどんでん返しも良い。 しかし、映画としてみると、主題の未消化が目立つ。 あまりに直接的で、主題をそのまま言葉にしている感じである。 それではフィクションという形にする必要はない。 映画は娯楽なのだから、虚構に遊べるようにしてほしい。 それとも、この設定自体に少し無理があるのかもしれない。 つまり、猿や毛深い女性という設定自体に、虚構性が乏しく、もっと人間社会に入った設定の必要があるかもしれない。 人間の非自然性を描くにしても、人間のままでも充分に描けるし、むしろ人間の社会にひそむ人間らしさを、えぐり出したほうが良いだろう。 人間であることがそのまま非人間的である、そんな姿を描いたほうが良い。 この設定のままでは、初級といったところだろうか。 映像に関しては、おそらくわざとやっているのだろうが、自然界の動物が浮き上がっていたようだし、色調も原色っぽくて人工的な感じが強かった。 フジフィルムを使っていたようだが、フジの色が人工的に感じさせるのかもしれない。 ネズミなどいろいろな動物の調教は、相変わらず上手いものだ。 最後にネズミたちも、ニューヨークへ帰りたいと、ヒッチハイクしていたのには笑えた。 2001年のアメリカ・フランス映画 |
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