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特別完全版となっているが、1979年につくられた映画の再編集版である。 この映画のすばらしさは今更言うまでもない。 主題、映像、演技、音楽とどれをとっても、文句のつけようがない。 1979年に公開された原作には、星二つをつける。 しかし、あらためて編集し直したものに星をつけるか、いささか疑問に思う。
映画にかぎらず、表現とは特定の時代や、社会のなかでなされるもので、完成した作品はその時代を反映したものである。 ある時代、その社会に生きている人間の、内心から滲み出たものが、同時代に生きる我々の心を打つのである。当サイトの映画評論の基準は、 2. 古典となりうるか であるから、公開されてから長い年月がへたものは、また別の基準で見る必要がある。 「ゴッドファーザー」で有名なこの監督はその後、制作者にまわったとはいえ、高名なしかも評価の確立した作品の再編集版は、やや不純な動機がひそんでいるように感じる。 この作品が優れているだけに、やるせない思いがして仕方ない。 すでに60歳を越えた監督の表現行為としては、いささか体力が落ちてきたためだろうか、後ろ向きのように思う。 表現者に懐古の姿勢を見たくはないものだ。 1975年4月30日におわったベトナム戦争は、アメリカにとって醜悪なものだった。 負けた戦争だったからというより、戦う正当性がもてなかったからである。 どんな戦いであっても、自分たちが正しいから戦うのだ、そう思わなければ戦うことはできない。 ベトナムの共産革命が絶賛されていたこともあったから、タイやマレーシアなどまでが共産化して、いまだにアジアは混迷のままだったかもしれない。 わが国の経済が朝鮮戦争から恩恵を受けたように、韓国経済はベトナム戦争から多大な恩恵を受けた。 近代化がすすむ現代のアジア情勢は、アメリカがベトナムに介入したことと、無関係ではない。 アジアの近代化をどう評価するかは、また別の問題になるかもしれない。 しかしそうはいってもアメリカにとって、無意味な戦争をしてしまった対価は、あまりにも大きかった。 軍需産業の個別的な利益に奉仕したため、アメリカでは正義が崩壊の危機に瀕したのだ。 その絶望感と危機意識が、この映画からはひしひしと伝わってくる。 きわめて優れた軍人カーツ大佐(マーロン・ブランド)は、将軍になってもおかしくない人だった。 その彼はベトナムを見て、アメリカ政府の行動に懐疑を抱き、やがてアメリカから離反していく。 彼は優れた人徳でもって、カンボジアに独立国を作り、その首長としておさまっている。 カーツ大佐には殺人罪で逮捕状がでており、反アメリカだからという理由で、暗殺が極秘のうちに発令される。 その任務をおびたのが、この映画の主人公ウィラード大尉(マーティン・シーン)である。 サイゴンからナン川(=メコン川)をさかのぼり、ウィラードはカーツに迫っていく。 しかし、ウィラードの目にするものは、カーツに思い入れするものでこそあれ、アメリカ政府に疑問を抱かせるものばかりだった。 アメリカは攻撃しては死傷者をうみだし、人道主義者を装って、怪我人を救助する。 ベトナムにおけるアメリカの存在そのものが、ウィラードには犯罪であるとすら思えてくる。 映画の終盤へ向けて、細かい事実を積み重ねて、説得力を増していく。 アメリカが犯罪をおかしていると感じたカーツ大佐だが、アメリカ人であることからは逃れらない。 死に場所を探していた彼は、ウィラードに殺されることを知りながら、粛々と殺されていく。 ウィラードとカーツが会ってからのシーンは、この映画の主題が直接的に展開され、当時のアメリカの苦悩が大きなものだったとよくわかる。 そして、この映画がアメリカ人のためのものだったこともよくわかる。 人間の善悪という二面性を、素直に見つめながら、人間への信頼を語るこの映画は、きわめつきの反戦映画といっても良い。 しかし、優れた反戦映画が、軍のヘリコプターや爆撃といった軍事行動によって演出されているのは、なんと言っても皮肉である。 軍隊の装備や行動がなければ、反戦もありえない。 強いて言えば、それがこの映画の限界かもしれない。 1979年の作品から、いろいろなシーンが加えられた。 冒頭のワンカットが30秒を超えるように、元々ゆっくりとした展開のこの映画が、3時間を超えてますます長くなってしまった。 映画のテンポは、年々速くなっており、この映画はもはや鈍く感じる。 ヘリコプターの編隊飛行や、爆撃シーン、フランス人入植者たちのシーン、バニーガールのいる雨の基地のシーン、カンボジアの集落のシーンなど、もっと短くしても良いと思う。 おそらく監督は、カットできなかったのだろうが、それが体力の衰えを象徴しているのだろう。 優れた映画だっただけに、再編集にとまどいを受けた。 2001年のアメリカ映画 |
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