タクミシネマ         13 days

13 Days   ロジャー・ドナルドソン監督

 1962年のキューバ危機の時、アメリカ政府は対応に苦慮した。
その苦悩を描いたもので、大変にお金がかった映画である。
ケヴィン・コスナーがでているが、2時間半をそれなりに楽しめる映画に仕上がっており、歴史を考えさせられる。
13デイズ 〜コレクターズ・エディション〜 [DVD]
 
劇場パンフレットから

 この映画がどこまで真実を描いているかは判らないが、大筋で事実だったろうと思う。
キューバにミサイル基地が建設されているのが、U2の空中撮影によって発見された。
冷戦の最中だったから、今にもミサイルが飛んでくるのではないかと、アメリカ政府は大騒ぎである。
ミサイル基地が建設されたから、ただちに核攻撃が始まるとは考えにくい。
しかし、当時の赤色ソ連は、残虐非道な独裁国家と見られていたので、そうした恐怖もあながち的外れではなかったかもしれない。

 少なくともミサイル基地が建設されてしまえば、政治的にはソ連が有利になることは間違いない。
ミサイル基地の建設中止と、ミサイルの撤去を求めて、アメリカは海上封鎖にでる。
時の大統領は、ジョン・F・ケネディ(ブルース・グリーンウッド)である。
この映画は、ケネディ大統領と司法長官だった弟のロバート・ケネディ(スティーブン・カルプ)の行動を、大統領補佐官だったケネス・オドネル(ケヴィン・コスナー)から見たものである。
それにしても、当時のアメリカを動かしていた男たちは若かった。
ジョンが45才、ロバートが36才、オドネルは38才だった。
わが国の政治家としては、今でも考えられない年齢である。

 映画は、空爆を主張する軍部の動きを押さえて、大統領ら3人がいかにして平和的な手段でミサイルを撤去させたか、という展開である。
空爆は反撃を生み、世界大戦に発展しかねない。
それを押さえたのがケネディだという見方は、前からあった。当時ベトナム戦争が始まっており、戦争の匂いがだんだんと濃くなりつつあった。
そこへキューバ危機である。
巨大な軍需産業は、大きな儲け時の到来と考えたのだろう。
軍需産業サイドの軍部は、空爆を主張したというのだ。
この主張は、ケネディ暗殺にもつながるもので、この映画が歴史を見る視点がどこにあるかを伺わせる。
この映画は、あまりにも軍部を好戦的に描きすぎるとして、アメリカ国防省は撮影協力を拒否したという。

 反戦派のケネディがいる限り、ベトナム戦争も終結させられてしまう。
それでは儲けの千載一遇の機会が失われる。
そう読んだ軍需産業によって、ケネディは暗殺されたというのが、オリバー・ストーン監督の「JFK」である。
この映画も、同じ視点から歴史を見ている。
未だにケネディ暗殺の真相は明らかにされていないが、最近の流れとしてはこの映画や「JFK」のほうにあるようだ。
ちなみにケヴィン・コスナーは、「JFK」にも出演しているし、この映画の製作もケヴィン・コスナーである。

 ケネディを演じたブルース・グリーンウッドも、ロバートを演じたスティーブン・カルプも、よく似ていた。
しかも、二人ともそれなりに演技しており、豊富な脇役陣と相まって、重厚な政治劇をつくりだした。
とりわけ軍部の突き上げ、議会の反対にあった大統領が、信念に基づいた決断を下す時の苦悩は良く伝わってきた。
大きな決断を下さなければならない立場とは孤独なものだ。どう動いても批判される。
それは地位が上がれば上がるほど、孤独になるだろう。
王の孤独という言葉があるが、民意で選ばれた大統領といえども、孤独の程度においては同じである。

 細かい部分で、いくつか感じたことがある。
1.当時のアメリカ政府には、女性がいなかったこと。70〜80年代へと、女性運動が起きることを納得する。
2.ケネディやオドネルたちが、国家の急務で奮闘しているとき、夫の行動へ妻の関与がまったくなかったこと。オドネルの妻は、夫に対して自分だけ原爆から助かるとさえいう。ここには一家を上げてお国のためという資質はまったくない。
3.会議での発言に、個人の意見がはっきりとでていること。わが国の会議とくらべると、ずいぶんと違うものだ。

 お金をかけた映画だけあって、時代考証などには神経が払われている。
オドネルの乗っていたマーキュリーをはじめ、多くの車は当時のものが配置されていたし、洋服などのファッションも忠実に再現されていた。
もちろん、国連やホワイトハウスの内部も、きちんと再現されている。
ディテールを楽しむには、とても良い映画だろう。共和党支持者の映画か?

2000年アメリカ映画

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