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バンディッツ
バリー・レヴィンソン監督

 2人の男が、銀行強盗を職業としている。
彼らは金に困って、発作的に銀行に押し入ったのではなく、銀行から銀行へと強盗をしてわたりあるいている。
わが国では連続強盗というのはあっても、銀行だけをねらって強盗し、それを職業とする犯罪者はほとんどいない。
銀行強盗を職業とするのは、アメリカに特有の映画ネタである。

バンディッツ 特別編 [DVD]
劇場パンフレットから
 刑務所を脱獄したジョー(ブルース・ウィリス)とテリー(ビリー・ボブ・ソーントン)は、誰にも傷つけず殺さないことをモットーに、 しかも庶民のお金には手をつけないことをプライドに、オレゴンからカルフォルニアへと、銀行強盗をくりかえしていた。
 
通常の営業時間に押し入れば、大勢の客や行員がいるので、大騒動になるのは眼に見えている。
だから、強盗の成功する確率は低い。
そこで彼らは、前の晩に支店長の家に押し入り、翌朝早くに支店長と一緒に銀行へ出勤する。
まだ誰もきていないので、強盗はまんまと成功する。
1人のアシスタント・ハーヴィー(トロイ・ガリティ)とともに、この手口で何度も成功していた。


 ある時、彼らのあいだに1人の女性ケイト(ケイト・ブランシェット)が紛れ込んでくる。
彼女は最初、ジョーの恋人になる。
しかし途中で、テリーとも仲良くなる。
奇妙な三角関係のまま、銀行強盗が続く。
これが続くわけはない。
やがて三角関係は破綻し、彼女は離れていく。
ここまでは自然の流れとして、順調に映画は進んでいく。

 連続強盗の彼らには、100万ドルの懸賞金がかかった。
そこで、彼らは最後の大ばくちにでる。
この映画は、最後の大ばくちの銀行強盗シーンから始まっており、少しずつ時間を戻りながら、映画は冒頭のシーンと交互に進む。
最後に再び最初のシーンに戻って映画は終わるが、ちょっとしたどんでん返しがあって、意外な結果に終わる。

 次々におきる銀行強盗も、さまざまなバリエーションが用意されており、決して退屈させない。
主人公たちの日常生活も、丁寧に描かれている。
そして、使われる車も、入念に選ばれている。
ジョーが乗っていたポンティアックGTOがとても懐かしかった。
また、DS21や古いメルセデスのオープンの美しさを、あらためて確認させられた。
映画のつくりは大変に凝っており、脚本も良くできている。


 一つ一つのエピソードはそれなりに面白く、凝った展開をもっているが、残念なことに物語に起伏がない。
そのため、物語の展開が平凡になってしまった。
優れた映画は、1つのカットが次のカットへとつながり、観客の関心を引きつけたり、突き放したりしながら、中盤から終盤へと盛り上げていく。
そんな展開に観客は酔う。
同じ大きさのエピソードを、平板的に並べても、観客は映画に没入できない。
観客とは勝手なものだ。

 ところで、犯罪を職業にするのは良い。
非合法の世界に生きる、それはなかなかにかっこいいことでもある。
問題は、犯罪で膨大なお金を入手した後である。
いつまでも犯罪を続ければ、やがて捕まってしまうから、どこかで犯罪をやめる必要がある。
もちろん逮捕されてしまったら、映画は面白くもなんともない。


 成功した犯罪者が、ちびちびとお金を使って、余生送るのでは映画にならない。
だいたい堅実にお金を使うのでは、最初から堅気の仕事をしたほうが、遥かに効率がいい。
しかも、いくら膨大なお金を手に入れても、それだけで余生を送るのは厳しいかもしれない。
2億や3億では、リッチな余生は無理である。

 彼ら2人は稼いだお金で、アカプルコにいってホテルをやろうとしている。
犯罪から気質へのここがどうしても、アンバランスで説得力がよわいのである。
まず、ホテルの経営にはそれなりのノウハウが必要だし、資本金があれば簡単にできるというのではない。
このくらいは愚かそうなブルース・ウィリスでも、わかるはずである。

 ホテル経営などという辛気くさい日常には、犯罪者の気質が耐えられないだろう。
他人への快適さを提供する仕事は、銀行強盗にはもっとも不向きな職業である。
銀行強盗の引退後の生活を、もっとリアルに感じさせてほしかった。
スタイリッシュな文体をもっているのだが、いまいちのパトスに欠けているようだ。

 この映画はコミックなのだが、どうも気持ちよく笑えなかった。
しゃれた会話が飛び交っているのはよくわかるが、英語と日本語の違いからか、どうもすんなりのれない。
しゃれさと情熱が、離反してしまっており、なんだか盛り上がりに欠けていた。

 単純肉体派がブルース・ウィリスで、頭脳派にビリー・ボブ・ソーントンという配役は、ぴったりのはまり役だった。
しかしそれにしても、面白い映画を作るのは、ほんとうに難しいことである。
2001年のアメリカ映画

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