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世界的なベストセラーになった小説の映画化で、多くの子供や大人たちに待たれていた。 小説にほぼ忠実に作られているらしく、また、ファンタジックなイメージもよく再現されている。 SFXもいまや本当に自然になった。
やがて11歳になり、魔法使いの学校への入学許可がくる。 この童話には、おそらくイギリスの古い話が、たくさん下敷きになっているのだろう。 外国人には、なかなかに興味深い。 魔法使い学校への入学、学校での生活が描かれるわけだが、こうした映画はストーリーを云々しても始まらない。 その中に描かれる、エピソードを通じて、作者のメッセージを読むしかないだろう。 そして、奇想天外な画面を楽しむものだ。 血縁による人間評価、パブリック・スクールをもした全寮制の魔法使い学校、権威ある教師たち、親しみあふれるが身分の低い門番、学年による確立された上下関係などなど、いかにもイギリスの古き良き歴史に則った仕立てである。 この保守性が子供たちにも、また大人たちにも、気楽に受け入れられる原因だろう。 自分たちが慣れ親しみ、かつ、ちょっと上の階級の習慣が、安心してしかも憧れをもって馴染める。 どこにも存在しない話題をあつかった超革新的なお話は、いかに優れていても多くの読者を獲得できない。 いかに優れたSFといえども、より狭い読者しか獲得できない所以である。 まったく革新的なことなど、自己実現のしようがない。 新たな創造は、最初はほとんどの人には受け入れられず、評価もなされないのが普通である。 ごく一部の人が、その有効性を認めて、徐々に市民権を獲得していく。 そして、市民権を獲得したときには、新たなものを創った当人は、すでにこの世にいないことが多い。 それは仕方のないことだ。 ハリーは里子にだされていたが、生まれは由緒正しき魔法使いである。 血筋によるエリート意識は、イギリスに限らず古き時代の名残であろう。 血縁による正統性は、身分秩序を支えた基本原理であり、封建的な前近代の象徴である。 今やこれが肯定されることはありえない。 しかし、庶民である大多数は、上流階級への憧れをもっており、いまでも血縁願望を持っているのだろう。 長い時代の遺産は、良きにつけ悪しきにつけ、なかなか変わるものではないことを知らされる。 この映画の主題は、同級生との友愛と悪に立ち向かう勇気である。 ハリーが級友のハーマイオニー・グレンジャー(エマ・ワトソン)と、ロン・ウィーズリー(ルパート・グリント)をともなって、悪い魔法使いと戦う。 それが校長先生(リチャード・ハリス)や教頭先生(マギー・スミス)の暖かい眼差しに支えられて、きちんと評価される。 めでたしめでたしのハッピーエンドも、娯楽作品のお決まりである。 そして、パブリック・スクールでありながら黒人もいるし、サッカーのようなゲームは男女混成チームである。 人種差別や男女平等へ、話の基本的な部分で目配りされている。 かつてなら友愛は、男性間のものであり、女性との間には考えられなかった。 友愛とは友情であった。 年齢が近ければもちろん、年齢が離れていれば少年愛として、男性間で大切にされ崇高とされた心性が、友愛である。 恋愛は近代になって始まったものだが、それ以前にあったものが男性間の友愛だった。 前近代では女性が一人前の人間とは見なされていなかったから、男女の間において対等で等質な感情があるとは思われなかった。 男性間の精神性こそ崇高とされ、女性へのそれは性欲による生殖のためのものとして、ずっと低い位置しか与えられていなかった。 この映画はハリーの友人に、優秀な女の子ハーマイオニーを登場させ、彼女が何度も危機を救う。 勇気ある女の子の存在が、小さいときから何気なく刷り込まれていけば、男女が平等だという意識は自然のうちに培われるだろう。 人種による隔離や性別による分業が、良くないのだ。 それにしても、子役たちが実にうまい。 ましてや男女混合の更衣室など、想像もつかない。 しかし、性差の解消は、ユニセックスと言うことである。 人間の解放とは、ゲイが認められるように、男女に違いを見いださないものだ。 この映画でも、肉弾戦のゲームに女性が参加していたのは、肉体的な非力さを克服しようとする現れだろう。 悪に立ち向かう勇気は、もちろん必要だが、この映画が描くような<正義対悪>という構造は、やや時代遅れという感じがする。 何が正義で、何が悪か、正義と悪は表裏一体ではないか、そうした相対的な認識を示してほしかった。 神が生まれたときに、正義が誕生し、同時に悪も誕生したのだが、近代における神の死は、悪の死でもある。 童話とはいえ、優れた小説には、優れた哲学があるものだ。 この作品にも、透徹した時代認識と、新たな時代を切り開く思想を期待したかった。 2001年のイギリス映画 |
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