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ニューヨークの地下鉄をめぐる入札で、買収や収賄が行われていた。 それを舞台にした社会正義を考えるサスペンス映画である。 きちんとした脚本、なめらかな展開、やや重いが自然な演技と、文句なく星一つを献上する。 良くできた娯楽映画である。 1969年生まれと、若い監督だが、今後が期待できる。
地下鉄の車中、彼の表情が何か妙にそぐわない。 やや暗い画面とあいまって、これから事件が起きることを予測させる。 彼の歓迎パーティから、映画は始まる。 収監されても、彼は友達のウィリー(ホアキン・フェニックス)を裏切らなかった。 自分だけで罪をかぶった。 ウィリーは当然、レオを歓迎する。 ところがウィリーは、かつてレオと仲のよかったエリカ(シャーリーズ・セロン)を恋人にしている。 ここで伏線がしかれる。 出所後の仕事は、義理の叔父であるフランク(ジェームス・カーン)が、手配してくれることになった。 フランクは地下鉄の修理会社を経営しており、ウィリーはその番頭役である。 レオはウィリーと一緒に働くことを望んだ。 しかし、ウィリーの仕事は、入札で地下鉄の役人を収賄することだった。 ライバル会社の仕事のじゃまをしに、操車場へ行くと、今までと様子が違った。 妨害工作を拒否されたウィリーは、信号係を殺してしまう。 そこでレオだけが、顔を見られてしまう。 贈賄側と収賄側の両者にとって、自分たちの身が危なくなる大事件である。 顔を見られたレオを殺して、事件を闇に葬ろうとする。 ここからの展開がじつに上手い。 エリカとレオの残り火、レオの母親(エレン・バースティン)への思い、フランクの家族思い、 エリカとウィリーのもつれ、ウィリーの不信などを、うまく絡めて物語は終局へと向かう。 目撃した警官に証言を翻させる工作が成功して、事件は贈収賄者たちの間で、一度は解決してしまうように見える。 フランクが取り分を少なくしただけで、贈収賄の構造はそのまま残る。 しかし後日、レオはすべてを証言する。 そして最初と同じ、地下鉄の車中で映画は終わる。 前科者のレオが、更生を誓っていながら、少しずつ悪の道にはめられていく。 そして、レオだけに貧乏くじがいく。 母親のためにも、すぐにでも稼がなければならない立場から、彼は普通にやっているだけなのに、困った状態へと落ち込んでいく。 彼が蟻地獄へと落ち込んでいく様子が、うまく展開される。 レオを演じたマーク・ウォルバーグにかぎらず、全員がやや重い演技だったことが気にはなるが、決して下手というわけではない。 ホアキン・フェニックスにしても、むしろ皆うまい。 とくに脇役を固める人たちが、定番ながら落ち着いた演技で、この映画を安定させている。 シャーリーズ・セロンが痩せて、せっかくの美人度がおちていたのが、ちょっと残念だった。 我が国では、すでにまじめに正義を追求する雰囲気は少ない。 まじめというのは、なんだか愚か者のようにすら見える。 しかしアメリカは、愚直に正義を問う映画を作り続けている。 これには頭が下がる。 家族と正義のあいだで困惑するとき、どう行動するかとか、判断の困難な状況を設定しては、社会的な正義を優先させる。 結論への導き方も自然で、無理がない。 レオは友達を裏切らなかった。 にもかかわらず、今度は殺人の濡れ衣をもかけられてしまう。 こともあろうに、今度は仲間から殺されそうになる。 叔父のフランクすらピストルを持って会いに来る。 レオは信頼を守ったのに、仲間はそれを裏切っていく。 しかも貧乏くじを引くのは、いつも下の者である。 そして正義のために、沈黙の掟をやぶるのも下の者だ。 正義が相対化され、信じる対象が揺れているとき、人は何に信を求めるのか。 人への信頼か。 この映画はそれを主題にしている。 しかし、正義のために身体を張っても、権力は生活を保障してはくれない。 仲間や親類を刑務所に送るという、正義を実践した後、レオの人生がどうなるのか大いに気になるところである。 この映画は、原題が「The Yards」であり、 裏切り者は邦題である。 だから、たんなるサスペンス映画と見た方がいいかもしれない。 それにしても、充分に楽しめ、かつ考えさせる映画である。 2000年のアメリカ映画 |
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