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物語は初めから判っている。田舎町で育ったバレエの好きな少女サラ(ジュリア・スタイルズ)が、ジュリアードのオーディションを受ける。 その試験に立ち会おうと、お母さんが車で試験会場に急ぐ途中、交通事故で死んでしまう。
そして、離婚しているお父さんのもとへと、引き取られていく。 そこはシカゴの黒人居住区で、学校では黒人ばかり。 白人の彼女が、新しい環境のなかで体験する毎日が、映画の見所と言えなくもない。 希望への糸口のない日々は、黒人たちの心をすさませる。 校舎にはいるとき、生徒たちは金属探知器をくぐらされる。 もちろん、勉強をしようと言った気持ちはうすい。 高校生でありながら、妊娠し出産する子供が後を絶たない。 そのなかで、わずかな生徒だけが、大学へ進学する。 二人は恋人になるが、黒人と白人のカップルはまわりから反感を持たれた。 黒人のなかでも優秀なデレク。 黒人たちの希望の星であるデレクを、白人の女がさらっていく。 白人は他に何でもあるだろうに、何をことさら黒人の恋人を持つのだ、という反感がおきる。 差別のなかで育つのは、たいへんなことだ。 差別のないところでなら、何でもないことが、邪推され歪曲されていく。 サラとデレクは普通の恋人なのに、黒人であること白人であることが、二人に障害をもたらす。 黒人たち同士の連帯をうたう者には、白人に媚びを売る奴は許せない。 黒人社会は、きわめつきの男性支配社会である。 映画の結末は、サラが再度のジュリアード受験に成功し、ハッピーエンドになる。 その過程で、サラを力づけるのが、黒人のデレクであり、黒人音楽のラップなのである。 ちょっと見には青春恋愛ものだが、この映画のかくれた主題は、黒人文化の確認だろう。 ゴスペルが黒人たちの厳しい肉体労働への癒しだったとすれば、ラップは現代の黒人たちへの精神の癒しなのだ。 ラップやヒップホップの廻りから、新しい流行が生まれてくる。 新しい流行は、いまや黒人たちが作っている。 白人はそれを加工して、儲けている。 現在の黒人には、希望がない。 だから、警察沙汰になったりもする。 黒人地域の犯罪はたしかに多い。 それも希望がないからだ。 それでも、黒人にはヒップホップという文化がある。 そう言っているようである。 グローバル化や情報社会化は、弱肉強食といった面を持ち、それに適応できた者だけを拾っていく。 そうした時代に、この映画は人間の独自性を認めようとする。 個性といってしまえば簡単だが、黒人文化はゴスペルが今や古典となったように、ヒップホップという音楽を持ち、ラップというダンスを持っている。 これが今や黒人の個性なのだ。 それにしても、黒人たちの身体の使い方は、ラップにぴったりである。 バレエという古典的な踊りには、サラの身体が充分に適応する。 しかし、白人である彼女の身体は、ラップにはあわない。 たくさん登場するラッパーたちの、しなやかな腰の使い方、身体のうねらし方。 ダンスというのは、もっとも人間の古い部分を刺激するのだろう。 実にセクシーで官能的である。 ゴスペルが農村部に生活した黒人たちの音楽だったとすれば、ヒップホップは都市に生活する黒人たちの音楽である。 農村部では今や労働はすべて機械化されてしまった。 もはや黒人を労働者として必要としてはない。 彼ら黒人は都市部へと流れざるを得ず、都市でスラムを作らざるを得ない。 世界中の都市で、同じ現象を見ることができる。 絶対的な貧困という意味では、アメリカの黒人は裕福だが、生きるためには希望が必要なのである。 それは絶対的な貧困か否かではなく、アメリカのなかで相対的に恵まれているかどうかが問題なのである。 黒人社会では、まだまだ情報社会化が進んでおらず、人間が生の肉体で生活しているようだ。 だから暴力が幅を利かせて、男性たちが威張っている。 生活を支えて、子育てをしているのは女性でありながら、男性の優位さは白人たちよりはるかに強い。 そしてまた黒人女性も、強い男性を求めている。 そのため、妊娠しても中絶することなく、未婚のまま出産に至ることが多いのだろう。 情報社会は、たしかに工業社会より裕福さをもたらすだろう。 しかし、人間は足で立っているのであって、頭で立っているのではない。 頭が優位する情報社会は不自然であり、長い目で見ると社会が隆盛を示す方向ではない。 女性の台頭はもちろん肯定されるが、肉体的な力が不要になることはむしろ終末的である。 そうした意味では、情報社会化に邁進する白人社会は、終末期を迎えているともいえるだろう。 それに対して黒人社会は、遅れているだけにまだまだ終末はこない。 今後は、有色人種の時代かもしれない。 2001年アメリカ映画 |
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