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見てしまった映画を酷評するのは、気が進まないことである。 しかし、つまらなかったのだから、なぜつまらなかったかを、書いておかなくてはならない。
5歳で王位についたルイ14世(ブノワ・マジメル)は、太陽王と言われたフランスの王様だ。 「朕は国家なり」といった人物で、絶対専制君主ぶりを発揮した。 贅沢の極みを尽くしたから、フランス王制が倒壊する遠因となったと言われる。 ベルサイユ宮殿の建築など、彼の仕事は後世に残る。 彼は音楽が好きで、政治にも音楽を多用した。 また王立ダンス・アカデミーを設立して、現代バレエの基礎をつくった。 この映画は、ルイ14世に取り入ったイタリア人音楽家リュリ(ボリス・テラル)と、ダンス好きなルイ14世の人生を描いたものだ。 絢爛豪華な宮殿生活と、孤独な王の立場が、音楽家の浮き草のような立場とならんで描かれる。 アメリカでつくられるコスチューム・プレイと違って、登場する衣装がみな埃っぽく汚れており、フランス人の不潔さがよくでている。 しかし、コスチューム・プレイは所詮コスチューム・プレイでしかない。 わが国の歌舞伎をフランスのある文化人が見て、退屈きわまりないと言った有名な話がある。 それは当然だろうと思う。 古典的な演劇には、約束事がたくさんあり、その国の歴史を知らないと、わからないことが多い。 だから、外国人がいきなり歌舞伎を見ても、退屈なはずである。 この映画が退屈なのは、17世紀という古い時代を使って、何も現代的な主張をしていないことだ。 古い様式をなぞっているだけに見える。 おそらくフランス人にはわかるのだろう故事が、たくさん秘められているに違いない。 しかし、近代というのは人間が普遍的な存在になったから、現代劇とりわけ映画は、国籍を超えて理解可能なのである。 輸出する映画であれば、誰にでもわかるように、物語を展開するべきである。 歌舞伎やオペラは、そもそも発生が前近代にあるのだから、古典劇をくりかえし上演する。 歌舞伎やオペラなどが、古典劇をくりかえし上演するのはかまわない。くりかえすことによって、洗練の極みを追求する。 それはそれで充分に価値がある。 だから、歌舞伎やオペラの役者は、職人であって芸術家ではない。 映画は近代のものである。 近代の表現とは、個人の創造性が支えるのであって、くりかえしによる洗練が要求されているのではない。 映画には、何らかの新たな主張が必要で、それがないものは駄作といわれる。 新たな主張をもたないものは、どんなに優れた演技であっても、一流の表現とは呼ばれない。 かつては絶叫型のオーバーな演技が、名優とされた。 それは舞台が主だったから、音響的な補助がないので、必然的に絶叫型にならざるをえなかった。 遠くの観客にもわかるようにオーバーな演技が要求された。 後発の映画には、俳優が育っていなかったから、舞台の役者が映画の俳優もつとめた時代には、必然的に舞台の演技が映画に持ちこまれた。 しかし、今日の映画は違う。 映画は電気的な補助がたくさん使えるし、カメラは俳優に寄れるしアップのシーンが使える。 観客の誰にでも、細かいところまで見える。 だから、映画ではオーバーに動く必要はないし、絶叫する必要もない。 それがやっと判ってきたので、映画の俳優が誕生し、映画の演技が確立してきた。 映画では、自然な演技が良い。 我々が日常に動いているような自然な動きこそ、映画では上手い演技である。 自然な動きのなかに、心理の動きを滲みだす。 近代は普遍的だから、近代人は国籍を超えて、心理のかすかな動きを了解する。 見得を切ったり、絶叫したり、それは舞台の演技である。 この映画の演出は、舞台と映画の区別がついていない。 21世紀の映画なのだから、もっと何気ない演技をして欲しい。 そのうえ、展開が鈍く、物語がなかなか進まない。 画面に動きがあるか、よほど緊張感が続かないと、展開の遅い物語というのは難しい。 2時間に満たない映画であるが、非常に長く感じられた。 音楽が重要な要素になっている映画でありながら、オーケストラの音が悪かった。 のびのある透明感というのでもなく、艶やかな音というのでもない。 また重厚な厚みを感じさせる音でもない。 むしろ、表面的なキンキンした音で、2時間の映画には疲れてしまう。 音楽が音を楽しむための主菜であれば、音が目立っても良いだろう。 しかし、映画の音楽は、画面と一体化して初めて効果を現すのである。 この映画の音は、画面への没入を妨げていた。 2000年のベルギー・フランス・ドイツ映画 |
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