タクミシネマ         バロウズの妻

バロウズの妻    ゲイリー・ウォルコウ監督

 ウィリアム・バロウズの伝記映画だが、この映画の主人公はバロウズ(キーファー・サザーランド)ではない。
なぜか、バロウズの妻ジョーン(コートニー・ラブ)が主人公である。
この映画は事実に基づいている、これ以上の事実はない、と最初に文字で説明が入って始まる。
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劇場パンフレットから

 1944年つまり第二次世界大戦の最中、アレン(ロン・リビングストン)、ルシアン(ノーマン・リーダス)、ディヴ(カイル・セコー)やバロウズなど、数人の男がジョーンの家に集まった。
ここではすでに麻薬が試されていた。
ニューヨークの話である。

 若く才能にあふれる彼らだが、ルシアンは言い寄るゲイの友人ディヴを殺してしまう。
ルシアンは刑務所に入る。
そこで話は1951年に飛ぶ。
ジョーンはバロウズと結婚して、メキシコ・シティに住んでいる。
二人は子供をもうけたが、今ではバロウズが同性愛になってしまった。


 ルシアンとアレンがやってくる今日も、バロウズは若い男とグアテマラへ旅行に行く。
バロウズは二人に会いたくないのだ。
ジョーンは二人を噴火中の火山へ案内し、野宿をしながら、彼らは楽しい時間を過ごす。
ルシアンはジョーンを口説くが、彼女はバロウズとの生活が切れない。

 バロウズは若い男にセックスを求めながら、ジョーンを愛している。
それは彼女も判っている。
セックスこそないが、彼女もバロウズが好きなのだ。
彼女はバロウズの才能を信じている。
貧しい生活のなか、ちょっとした拍子にバロウズは、ジョーンを射殺してしまう。
ほんの遊びのつもりだった。
しかし、ジョーンは死んでしまった。

 ジョーンの射殺がきっかけになって、バロウズは本格的に作家活動に入り、「裸のランチ」などの作品を残す。
何という皮肉だろう。
才能は神から与えられたものだ。
だから、才能のことをギフトというのだが、才能が必ず表面化するとは限らない。
いつ表れるかもわからない。
しかも、才能は狂気と紙一重なのだ。
ジョーンは狂気への理解を示していた。
才能を信じていたから、彼女はバロウズと生活できた。


 才能は才能のままで、空中に存在するのではない。
才能は人間の身体をとおして現れる。
しかし人格と才能は、あまり関係がない。
バロウズは麻薬に溺れ、同性愛という一種の狂気に染まっていた。
今日でこそゲイは市民権を得ているが、1950年頃には同性愛はタブーだった。
もちろん麻薬も駄目である。
バロウズは麻薬のために、アメリカにいることができず、メキシコへと落ちのびたのだ。

 それでも才能は存在する。
ジョーンはバロウズの才能を信じているが、バロウズという人格はジョーンに優しいとは限らない。
才能とは残酷なものだ。
へたに才能など、授からないほうが幸せである。
才能の発現は神に代わる行為だから、孤独であり他人を傷つけるかもしれない。
才能は近くにいる人たちのためではなく、すべての人間のために発現される。
だから近くの人は迷惑ですらある。


 凡人は自分の愛する人が幸せになることを望む。
家庭の平和が願いである。
しかし、才能はそれを許さない。
自分の愛する人であるか否か、そんなことは才能の前には無意味である。
才能にとって、家庭の平和は諸悪の根元である。
美しい愛が描かれるが、才能は愛を超えたものである。
だから才能は、しばしば愛を裏切るのだ。
その当人を愛したくても、当人の才能がそれを許さない。
愛と才能は両立しがたい。

 愛は人間が人間を相手に持つ感情である。
人間の愛は、神が人間を愛するのとは違う。
人間が愛するのは、神のものではなく人間のものである。
しかし、才能は神の命令である。
才能の行使とは、神の命令の実行である。
愛より才能のほうが、優位しているのは当然だろう。
才能は現世の価値を超越している。
だから、発揮されないほうが幸運な才能もあるが、それは人智をこえた話だ。

 アップの多いカメラ・ワークで、独特の色使いだった。
おそらくフィルターを多用したと思うが、なんとなく骨太といったらいいのか、粗野もしくは素朴といったらいいのか、ちょっと珍しい画面だった。
それがメキシコの貧乏長屋の街を、よくあらわしていた。
メキシコでロケしたと思うが、それがアメリカの風景とは違って、ねっとりとした暑さを感じさせていた。
当時の今でもそうだが、アメリカとメキシコの関係がしのばれた。

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