タクミシネマ           ポエトリー、セックス

ポエトリー、セックス    サマンサ・ラング監督

 女性のゲイの話だが、この監督もゲイではないかと思わせる。
前作「女と女と井戸なか」も、女性間の確執を扱っていたが、今回も女性同士の愛憎関係を描いている。
男性のゲイの監督がいるように、女性のゲイの監督がいるのも、まったく不思議ではない。
異なった体験により、違った視点が得られるだろうから、ゲイの登場により認識の幅が広くなっていくのは、とても良いことである。
ポエトリー,セックス [DVD]
 
劇場パンフレットから

 詩の好きな女子大生ミッキー(アビー・コーニッシュ)が殺された。
一見すると真面目な女の子だったが、彼女は性的な世界への探求心が人一倍強く、手当たり次第に性的な関係を体験していた。
ミッキーが殺されることから、この映画が始まる。

 彼女の両親は、私立探偵ジル(スージー・ポーター)に犯人の糾明を依頼する。
この女性がゲイである。
彼女は手始めに、ミッキーの先生だったダイアナ(ケリー・マクギリス)を訪問する。
するとこの女性がゲイで、ジルはたちまちダイアナと恋愛関係へと入っていく。
ところが、ダイアナはバイセクシャルで、ニック(マートン・チョスカ)と結婚していた。

 性に貪欲なミッキーは、ダイアナやニックともベッドを共にしており、3人で性の快楽を遊んでいた。
性交中に首を絞めると快感が高まるらしく、ミッキーは首を絞められ、それを見たダイアナは恍惚に達した。
ところが、ニックが誤って首を絞めすぎ、ミッキーを殺してしまった。
そこでダイアナはそ知らぬ顔をして、ミッキーを彼女の自宅の庭に埋めていたというわけである。
快楽犯罪に仕立てたミステリーで、女性のゲイのベッドシーンを見せながらの、犯人捜しがこの映画の見せ場である。

 ゲイ映画だとはいえ、取りたてた主張はない。
ゲイの権利を主張するといった、映画が語るメッセージはなく、単純な娯楽映画である。
そうした意味では、ゲイが普及しもはやゲイは特別なものではなく、ストレート同じスタンスで映画作りをするようになった、と言えるのかもしれない。

 最近のアメリカ映画は、出演者が高齢化したとはいえ、多くの映画は若い女性の裸を見せたがる。
オーストラリア製のこの映画の登場人物も、高齢者である。
ダイアナは40台も半ば、ジルも30才くらいだろうと思われる。
歳とった女性2人のベッドシーンというのは、あまり見かけないものだが、男性監督の撮るベッドシーンはちょっと違う感じがする。

 ベッドシーンというのは、2人の快楽にさまよう様子を描くものが多い。
しかし、この映画では2人がいかに恍惚状態にあるかではなく、2人の女性の肉体を絵画的に描いている。
この映画が描くのは、息も絶え絶えに快感をむさぼるというのではない。

 明るい部屋で、全裸の2人がゆっくりと語り合うシーンは、ベッドシーンでありながら女性の肉体をひいて撮っている。
2人とも年齢のわりには、身体の線が崩れておらず、同性の鑑賞に耐えうると考えているのだろうか。
女性同士のライブ・ショーを見せるシーンがあって、この監督は視覚的な女性なのかもしれない。

 綿密に構成されたミステリーというより、情感に流されながら女性心理と女性の裸を愉しむ、そういった映画かもしれない。
ジルが積極的に犯人探しをするのではなく、ジルの行動によってなかば自動的に、ニックとダイアナの殺人が浮かび上がってくる。

 私立探偵が他者としての犯人を捜すのではなく、自分も当事者の一人になりながら、つまりゲイの相手になりながら犯人にたどり着く。
私立探偵だから良いものの、捜査が状況まかせの感じがする。
普通に自立した探偵なら、関係者と性的な関係は結ばないだろう。
このあたりはご都合主義である。

 おそらく監督は、娯楽作品をつくりたかったに違いない。
そのため、女性が自立した職業の証として、探偵や捜査官などが流行しているので、この映画でも女性の職業に探偵を配したのであろう。
しかも、環境問題にも理解を示す象徴であると思うが、ジルはシドニーの街から離れて、山奥で一人暮らしである。
そしてゲイと、いかにもの設定である。
しかし、山奥に住んでいるから、私立探偵は車がなければ生活できない。
ダイアナとジルが簡単に恋におちたり、2人が煙草をすっていたり、とその展開はちぐはぐな感じがする。

 オムニバス的にはさまれるシーンの説明は、片方に顔を配して反対側に文字をおく。
このカットが何回か使われている。
いずれもなかなかに美しくて、感心させられた。
ミッキーが読む詩は、単純に過ぎていただけない。
性的なことを扱っても、詩の言葉には繊細さが要求される。

2000年のオーストラリア映画

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