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映画が主張するものが、はっきりと伝わってきて気持ちがいい。 アメリカの副大統領が任期の途中で死去した。 その後任にレイン・ハリソン(ジョーン・アレン)という女性の上院議員が指名された。 かねてより大統領ジャクソン(ジェフ・ブリッジス)に、敵意をもつ下院議員のシェリー・ラニヨン(ゲイリー・オールドマン)が、これをチャンスとばかりに私怨を晴らそうとする。 ジャック・ハサウェイ知事が有力だったので、ジャックなら支持する、と彼は横車を押す。
その第1弾として、大学時代に男子学生と乱交した彼女の写真が暴露される。 反道徳的な体験が委員会で問題になり、しかも彼女は売春をしていたのでは、との疑惑もかけられる。 彼女は、セックス問題にはいっさい反論しない。 今までだと、男性の乱行は若い時代の武者伝として許され、女性のそれはなぜ許されないのか、といったフェミニスト好みの展開となる。 しかし、この映画はそういった展開をとらない。 彼女は乱交していないにも関わらず、乱交にたいして発言を拒否し、肯定も否定もしない。 乱交をしていなければ、していないと拒否すればいい。 しかし、そういった形での拒否は、自分をセックス・スキャンダルの次元へと下げる、と判断しているのだ。 だから、乱交にかんした発言は一切せずに、そうした事実があっても、現在の彼女が適任かどうかを判断させようとする。 これは今までよりも、明らかに一歩進んでいる。 女性に限らず、私的なスキャンダルをまとも取り合えば、自分もそのレベルに落ちることである。 ノー・コメントが最良の対応である。 アメリカ映画のすごいところは、同じ主題を何度も何度も繰り返しながら、少しずつではあるが着実に進んでいることである。 プライバシー一般としてとらえている。 この映画には、星を一つ献上する。 そのうえでの話である。 映画としてみると、大統領がパーファクトな人間に描かれ過ぎていたり、レインも完璧な女性でありすぎたりと、勧善懲悪な都合のいい前提ばかりである。 こうした人物設定だから、この映画の主張が素直に伝わるともいえるが、やはり映画として奥行きに欠けると言わざるをえない。 展開がドラマの定説にのっとりすぎている。 ジャック・ハサウェイ知事の人命救助がヤラセだったとか、レインの乱交が単なる噂で事実ではなかったとか、最後に明かされる話が途中で見えてしまっている。 また政治の世界では、善悪は相対的なもののはずだが、シェリー・ラニヨンが悪者になりすぎている。 よく練られた脚本や、最適のヒロイン、お金のかかった映画であることはわかる。 プライバシーを鋭い角度から扱っていながら、ややパターン化した展開だったので、星2つにはならなかった。 綿密に脚本を練りすぎると、確かに欠点はなくなるだろうが、大勢の人たちがつくった作品のようになってしまう。 皮肉なことに周到すぎる部分が、いまいちの感動を呼ばないのである。 この映画で特筆すべきは、レインを演じたジョーン・アレンのキャスティングであろう。 彼女を主演に選んだ時点で、この映画の仕上がりが決まったように思う。 絶世の美女というのでもなく、妖艶でもなく、かといって知性的でなければならず、とにかく彼女は適役だった。 劇場プログラムによれば、監督は彼女をイメージして脚本を書いたという。 この映画から受ける印象は、アメリカは厳しい国だと言うことである。 政争はどこの国でもあるが、アメリカは本音と建て前の使い分けを許さない。 アメリカで公的な活動をするには女性でも、もはやプライバシーはないだろう。 いままで男性支配の社会だったが、その責任は男性だけが負ってきた。 しかし、女性も男性もなくなり、両者が平等に社会を支えるようになると、女性も強いストレスに曝されるようになる。 アメリカの女性たちは、どんなストレスに曝されようとも、責任の重さにたじろごうとはしない。 神に代わることは、孤独に耐えることだから。 この映画は、女性の問題を扱いながら、女性固有の論理をすでに脱皮している。 いまだに男性支配云々しているわが国の通俗フェミニストたちには、この映画の真意は判らないだろう。 その男性が今の夫で、彼女は独身だったから不倫にはならないが、平和な家庭を壊した女性となった。 これは自分が不倫をするよりも、もっと悪いことであるに違いない。 家庭の破壊者、しかもその妻はレインの親友だった。 女性の連帯など、もはや夢物語だろう。 タイトルの「ザ・コンテンダー」は闘者という意味だが、女性の連帯では戦えない。 大統領はクリントンを模したと思われるほど、セックス・スキャンダルが頻繁に登場する。 そのなかで、レインが大統領は、有罪ではないが責任はあるという。 この発言はおもしろかった。そして最後に、大統領が下院でする演説は実にかっこよかった。 抽象的かもしれないが、理念をきちんと訴える、そうした習慣はわが国にはない。 わが国はどうも実利優先の社会で、理念が未来を切り開く社会ではないようだ。 映画の冒頭の2・3カットだが、きわめて発色が良かった。 目を見張るほどの色で、このままいくのかと思ったら、途中で露出がオーバーになってしまい、その後は普通の発色に戻ってしまった。 あれは何だったんだろうか。 シェリー・ラニヨンを演じたゲイリー・オールドマンが、製作総指揮をとっている。 広い劇場に数少ない観客で、場内はさびしかったが、白人系の外国人が3割くらいいただろうか。 外国人が目立って多かったのには驚いた。 2000年のアメリカ映画 |
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