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わが国ではあまり聞かないが、スイスでは映画が作られているのだろうか。 スイスの映画というので、物珍しさも手伝って見に行った。 ダニエル・シュミットは「ヘカテ」1982の監督でもあるが、1941年生まれの60才である。
彼女が相手をする男性たちは、大臣とか頭取といった上流階級の人間である。 彼らが、スイスの国籍がとれると保証してくれるので、彼女は安心していた。 ところが、彼女の物珍しさにうつつを抜かしていただけで、男性たちは誰一人として、彼女の国籍取得には協力しなかった。 結婚の約束をしたシュトゥルツェネガー少尉(マルティン・ベンラス)には、40年連れ添った糟糠の奥さんがいた。 そこで彼女は、彼の秘密組織に電話をかけて、コブラ国のクーデタをおこさせる。 その結果、彼女はコブラ国の女王になるというエンディングである。 スイスへのシニカルな愛憎にもとづいた映画である。 ロシアからの逃亡者で、しかもそれが売春婦というのも、いかにも現代風である。 それを迎え入れないスイスというのも、ありそうな話である。 スイスは周辺の国と、仲良くしない。 おそらく亡命者は拒否しているだろう。 永世中立を守るために冷淡な態度を保持し、スイスは付き合いにくい奴だといわれても、がっちりとガードを固めているに違いない。 そのなかでスイスは、一人あたり世界最高の国民所得を維持し、近代国家として熟成しつつある。 近代というのは、人間の生活が自然から離れ、人間の観念が一人歩きを始めた時代である。 観念の一人歩きは、人間を不自然な世界へと彷徨わせる。 観念の緊張はそう長くは続かず、自然の秩序を敷衍し続けることはできない。 自然の秩序に従い続けることは、観念にとって桎梏となってくる。 やがて観念は、自己展開を始める。 それは自然の秩序にしたがったものではない。 個人の頭のなかに存在する好みにだけ追随する。 好みは常識とは無関係で、時とすると逸脱することもある。 観念には好ましいものと、嫌いなものしかない。 社会人を演じている以上、常識的な社会性と好みの距離は測ることができる。 非常識な好みは倒錯だと知るから、自分の好みの行動を秘密裏におこなう。 それはイギリスの上流階級を見ればよく判る。 まわりから孤立して、近代が熟成していけば、変態か否かの区別は消失していく。 わが国では、庶民にも変態さんが登場し始めたが、スイスでは上流階級に属する男性たちが、変態さんである。 近代化に遅れたロシアには、変態さんは少ないだろう。 変態に無自覚なイリーナは、変態さんに付き合いながら、スイスの国籍取得をまつ。 コブラ国の誕生以降は短く、この映画は、イリーナと変態さんたちとの珍妙なやり取りを楽しむものだろう。 スイスに関する情報があれば、もっと楽しめるのだろう。 スイスのローカル・ギャグらしきものがほとんどで、なかなか馴染みにくい。 しかもモンティ・パイソンのように、ビジュアル的に分かりやすくないので、楽しむにはちょっと無理があった。 スイスではそれなりの評価があるのだろう。 ところで、スイスの美意識もドイツと似ているのだろうか。 色使いやデザインといったものがゲルマン的で、おどろどろしく不気味な感じがした。 しかし、デザインの洗練度は、ナチのほうが進んでいる。 また暗い画面と発色の悪いカラーからは、照明などの使い方が古い感じがした。 イリーナを演じたエレナ・バノーヴァは、美人なのか美人でないのか、よくわからない。 時とするととても美しく登場するのだが、時とするとあまり美人とはいえないシーンもあった。 不思議な女優さんである。胸の大きさを強調する衣服は、白人たちの専売特許である。 このイリーナも、見事な胸をふんだんに見せていた。 劇場プログラムで、青山真治が「ソフィスティケイテッド・コメディ」と称して、この映画を絶賛している。 彼はほんとうにこの映画に感動したのだろうか。 ルイス・ブニュエルなきあと、ダニエル・シュミットは本格的にルビッチ・コメディを継承したといっているが、この映画は軽妙さに欠けており、コメディとしては上質とは言い難い。 彼の立場は提灯持ちの記事を、書かなければならないのだろうか。 立場として仕方ないならともかく、こうした文章を書いている表現者を信用できなくなる。 1999年のスイス・ドイツ・オーストリア映画 |
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