タクミシネマ          ドッグ ショウー

 ドッグ ショウ      クリストファー・ゲスト監督

 犬が好きで好きでたまらない人たちが、自分のこよなく愛する犬をコンテストに出場させる話である。
この映画は、きわめて単純な展開であるが、はなしの内容は相当に複雑である。
現代社会の一面を、切って見せている。

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劇場パンフレットから
 ペットは近代の産物である。
そういったら犬や猫は、大昔から人間と生活をともにしてきた、と反論されるかもしれない。
確かに、犬や猫にかぎらず鶏だって、ずっと昔から人間と一緒に生活してきた。
しかし、それは家畜と呼ばれる存在で、純粋に愛玩の対象であるペットではなかった。
家畜とは人間に役に立つ存在という意味で、犬は番犬や猟犬だったし、猫は鼠をつかまえるものだった。
鶏はいうまでもなく、卵と食用のためだった。
だから、役に立たなくなった家畜は、たちまち殺されてしまったのである。

 ペットは動物でありながら、一面では人間である。
人間というより、自分の子供といったほうが良いだろう。
永遠に自分の愛玩の対象として、子供のままであり続ける存在、それがペットなのである。
だから、ペットに実用性はまったくない。
ただ、純粋に愛情の対象である。
ペットが死ねば、子供が死んだのと同じように嘆き悲しむ。
人間とおなじように、心をこめて埋葬する。
しかも、ペットを愛玩するのは、子供ではない。
大の大人が、ペットに執着する。
ペットの愛玩こそ、現代の人間関係を象徴するものである。


 自分たちのセックス場面を見て、そのショックでふさぎ込んでしまった犬。
そのために犬のカウンセリングに行くカップルから話は始まる。
メグ・スワン(パーカー・ポージー)とハミルトン・スワン(マイケル・ヒッチコック)のスワン夫妻は、お金持ちのエリートとして描かれている。

 次に登場するのは、男性遍歴の多かった女性クッキー・フレック(キャサリン・オハラ)と右足が2本ある男性ジェリー・フレック(ユージーン・レビー)のカップル。
フレック夫妻は仲良しだが、あまりお金はない。
釣道具屋をしながら猟犬を飼う独身男性のペッパー(クリストファー・ゲスト)。

 男性ゲイのカップル、ステファン(マイケル・マッキーン)とスコット(ジョン・マイケル・ヒギンズ)。
女性ゲイのカップル、シェリー(ジェニファー・クーリッジ)とクリスティー(ジェイン・リンチ)。
五組のドッグ・ショウ出場者たちを、並行的に描きながら、映画はドッグ・ショウへとすすむ。
この五組が、現代アメリカを代表する家族なのだろうか。


 どの出場者たちも、ユニークで個性的でいい人たちだが、すこしずれている。
しかし、この映画は、犬を人間以上に愛玩する人たちを、冷たく批判したり、悪し様には描かない。
やや距離を保ちつつも、むしろ愛情のこもった視線で、ペットショウの出場者を見ている。
その距離感がとても気持ち良い。
近代の初めでは、ペットに対する理解が低かった。
ペットは子供や女性が飼うものだった。

 効率が優先される近代社会では、役に立たない生き物を、成人男性が飼うことは顰蹙ものだった。
しかし、個人化が進んだ情報社会では、ペットは人間にとって、かけがいのない存在になりつつある。
精神の渇きを、人はペットの癒しで満たそうとする。
そうした時代を理解しているから、この映画はペット愛好家に優しいのである。

 ドッグ・ショウへ出場しようとする人たちは、みな必死になって犬を磨いている。
それこそ喜劇的なまでの愛玩ぶりである。
いや悲劇的といってもいい人たちもいる。
こうした愛玩現象は、なにもペットに限らない。
いわゆるオタクといわれるものは、みな同じ傾向をもっている。
他人がどう言おうと、彼等にはまったく関係ない。
ドッグ・ショウで、コンテストの会場を走り回る犬と人間たち。
その姿形から、人間の生い立ちとか心理といったものが伝わってくる。
しかも、ペットは生きているので、物を対象にしたオタクとはちょっと違う。


 この映画は、ペットを見るものではない。
犬はあくまで犬であり、ペットの犬であろうと、野良犬であろうと、犬に違いはない。
見るべきは、犬に寄りそうやや滑稽な人間たちである。
コンテストの会場を走る人間たちは、なぜか妙におかしさが漂う。
五組の出場者たちは、犬をとおして人間関係が、もう一つ形成される。
だから、カップルである四組は犬をあいだにして、つぎつぎと騒動がもちあがる。
犬が元気なら人間たちも仲良くなり、犬のご機嫌が悪いと人間関係も悪化する。
しかし、独身男性は事情が違う。

 独身男性のペッパーも、犬を愛することにかけては、引けを取らない。
しかし、ペットはつまるところ相互関係を形成しない。
一人というのは、孤独なものだ。
彼はドッグ・ショウが終わると、犬と釣具屋の生活をたたんで、イスラエルに引っ越してしまう。
キブツでの共同生活が、彼に心の平静を与える。
情報社会へと時代が進むと、古い農耕時代に精神の癒しを求めるのは自然なのだろう。
ひりひりした情報社会から、自然を相手とする農耕の共同生活へ、これも良く理解できる。
ペッパー役を演じているのは、この映画の監督でもあり、ペッパーには監督の思い入れがあるのだろう。

 キャットショウもあるのだろうか、と余計なことも気になった。
犬なら調教できるから、コンテストが成り立つだろうが、わがままな猫だとショウになるだろうか。

2000年アメリカ映画

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