いくつかの物語が同時に進行する映画で、主人公のベラ(アンナ・トムソン)は自分が物語の中心でもあるが、狂言廻しの役をもつとめている。 登場人物も多く、なかなかに複雑な構成で、きわめてハイブローな脚本が、上手く書かれている。
ベラはかつて金融機関に勤め、高給をかせいでいたが、それに虚しさを感じて辞めた。 いまでは食堂のウェイトレスである。 35才になり、身の固め時かもしれない、とも感じている。 長年の愛人がいるが、ひどく年が離れているし、彼は離婚しそうにもない。 なによりも彼はセックスが下手である。 母親が一人の男性ブルノ(ジェイミー・ハリス)を紹介してきた。 見合いしてみると、これがいい男である。 彼は離婚経験があり、子供が一人いるうえに、もう一人押しつけられた。 いまでは二人の子持ちである。 そのうちの一人がある高齢の女性と見合いをした。 高齢の彼は、女性を性的に満足させられるか不安で、女性のほうがその気になっても、なかなかベッドに誘えない。 そんなうちに、ブルノとその女性が親しくなったりして、ベラにも高齢の彼にも影響がおよんでくる。 そうは言っても、結局二組の男女は、それぞれ年相応に仲良くなる。 ベラが35才で独身というのはあるとしても、かつて高給取りだったのが簡単にドロップアウト。 彼女は尊厳を失わないために、自分の生活を自分で確保している。 それでも内心は不安である。 ブルノは売れない小説家でありながら、二人の子持ちである。 しかも、きっちりと子育てをしている。のぞき部屋で働く女性ワンダは、ユングの心理臨床家である。 愛情とセックスが分離した人間関係が一般化し、老人が愛のないセックスを拒否する現代社会。 新聞広告ではじまる老人の恋愛と、いかにもアメリカの映画である。 製作は4ヶ国の共同となっているが、タッチやセンスはまったくアメリカ映画である。 人々はばらばらでありながら、それなりのつながりをもち、生活に追われかつ生活を楽しんでいる。 男性常連客の一人シーモアは、きわめつきのマッチョで、昔ながらの男性のやり方で行く。 寂しくても、女性や年下の人に心が開けない。 上下関係でしか人間のつながりができない。 のぞき部屋のワンダが、彼にやさしく対応してくれる。 この映画は、ニューヨークの下町という設定で、庶民の生活を舞台にしている。 そうでありながら、登場する庶民たちがすこぶるインテリで、会話には難しい話題がたくさん登場する。 わが国なら70過ぎの爺さんが、ユングの話にのれるだろうか。 この設定は、庶民が知にうといという社会ではなく、いわば仮想の知識人社会なのであろう。 そして、売春婦やのぞき部屋の女性といったセックスワーカーから、医者の女性までもはや両者のあいだには何の違いもなく、全員が平等なのである。 実に心温まる設定である。 こうでありたい。 この設定もいい。 人殺しや爆発事故などが、しばしば映画の主題になる。 それはそれで良いが、映画が人々の生活を映すものであれば、平凡で人の良い庶民が主人公になるのは、きわめて自然である。 庶民は頑固で保守的であるが、いい人のほうがはるかに多いのだ。 しかし、人助けをしたことから、莫大な遺産が転がり込むという展開は、ご都合主義にすぎていただけない。 偶然に支配される映画は、物語全体の信憑性に欠け、画面への没入を妨げるものとなる。 偶然だが、ベラに大金が入って高価そうな家を買う。 にもかかわらず、相変わらずウェイトレスをやっているというのは良いが、それが言いたかったのだとは思えなかった。 それと時間で買うレストランというのは、おもしろいアイデアでだった。 観客を教育しようとか、特別のメッセージを発するといった映画ではないが、庶民を少し知的にデフォルメして描いた映画として好感をもった。 やや甘いが、星一つをつける。 カメラのフレームとりに細かい神経が払われており、人物が必ず中心からはずされていた。 人物をスクリーンの中心からはずすのは、意識的に行わなければできないことである。 二人の会話のシーンでアップになっても、一人で喋るときは人物を片方へ寄せていた。 これは会話の相方を、想像させるためだろう。 しかし、露出の取り方が不安定だったらしく、発色がいいシーンと悪いシーンが混在していた。 2000年のアメリカ、フランス、ドイツ、イタリア映画 |
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