タクミシネマ        オーロラの彼方へ

オーロラの彼方へ     グレゴリー・ホブリット監督

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オーロラの彼方へ [DVD]

 1969年のニューヨーク、消防士のフランク(デニス・クエイド)は決死の救助活動をみせる。
しかし、それが物語の始まりではない。
彼には愛しい妻ジュリア(エリザベス・ミッチェル)と一人の子供ジョン(ダニエル・ヘンソン)がいる。
平和な彼の家族生活が、たんたんと描かれる。
どんな話が始まるのだろうと思ってみていても、なかなか話が始まらない。
話はいつの間にか、30年後の現代になっており、ジョン(ジム・カヴィーゼル)は同棲中のガールフレンドに出て行かれる。
落胆しているところへ、近所の幼なじみが子連れで遊びに来る。
その子供がクローセットから、無線機を発見する。
無線機は生きており、スイッチを入れると誰からか呼び出しがあった。

 ジョンは不思議な気分でそれに応えていると、相手は何と死んだはずの父親のフランクだった。
無線機は30年前の父親と、現在の息子を繋いでいたのだった。
しかも何とその日は、フランクが救助活動中に殉職する前日だった。
つまり歴史的な事実としては、1969年にフランクは死んでいるのである。

 しかし未来からのジョンの忠告は、フランクの死すべき命を救ってしまう。
死すべき人間が生きてしまった。
歴史を変えてしまったことによって、当然に別の因果関係が発生し、新たなことが起きる。
当時「ナイチンゲール殺人事件」という連続殺人事件がおきていたが、フランクはそれに巻き込まれ犯人にされそうになるし、ジュリアも殺されそうになる。
1999年に生きるジョンと、1969年に生きるフランクは、無線を通じて情報交換し何とか窮地を脱する。

 どうなることかと見ていると、フランクは死なず現代まで生き延びて、ジョンと楽しい日々を送るという驚くべきエンディングである。
オーロラの出るときは、電磁波の状態がふだんと違っており、それが過去と無線でつながったという話なのだが、何ともお気楽な展開である。
無線でつながる設定を外してしまえば、いま流行りの父子物の映画である。
ほんとうにアメリカでは家庭というか、家族が見直されている。

 個人がバラバラになってしまい、男女間もそれなりに距離感が出てきた。
とすれば親子という世代に関心が向くのは当然だろう。
しかしそうは言っても、かつての家族関係とは少し違い、血縁関係が確認しにくい父と子の間柄であるのが特徴的である。
そこで描かれるのは、背中で教育する強い父ではなく、子供に向き合い子供を精一杯愛する父親像である。

 母と子は出産を通じて直接性が確認できるから、親子関係の確認のために特別な儀式を必要としない。
女性がフェミニズムという形で観念を求めて自立したが、結局のところ生理的な女性性から切りきれない。
そのため、母子関係に関しては観念にすがらなくても女性は生きていける。
出産という生理に母子関係の原点をおく限り、女性は肉体でしか生きていないのだが、それでも女性は親子関係やっていける。

 妊娠・出産・授乳といった肉体的な生理をはなれたところで、母子関係をとらえ直す作業が、女性の本当の自立を招来するのである。
しかし、父と子は生理的な関係を、自覚するのはきわめて難しい。
射精という形でしか子供の誕生にかかわらない男性は、父子関係を生理に頼るわけにはいかない。
男性は親子の関係性を、観念で確認しなければ親子関係を生きていけない。
つまり情報社会という観念が支配する時代には、観念で確認せねばならない父子関係こそ問いなおされるのである。
必然的に父子映画が増えるわけである。

 観念は自由に操れるものだから、過去をいじることによって時間を超えてしまい、死んだはずの父親を生き返らせるといった芸当も可能なのである。
映画としては前半はのろくて困ったが、後半になると物語がまとまりだし、何とか映画らしくなってきた。
しかし、複雑な話の絡みのわりには、展開が単調である。
映像的にも取り立て見るべきものはなく、金のかかったb級映画といったところだろう。
原題は「Frequency」

2000年のアメリカ映画。


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