タクミシネマ             クローサー・ユーゲット

クローサー ユー ゲット    アイリーン・リッチー監督

 嫁日照りのアイルランドでの話。
どこでも目先の利いた若者は都会をめざし、田舎にいるのはさえない者ばかり。
とりわけ、生活や家を支えなければならない男性たちは、田舎の生活が強制される。
真面目であるがゆえに田舎に住む彼等には、若い女性と巡り会う機会が少ない。
そのうえ、自分だって田舎のカッぺであるのに、眼は格好いいものに向いているので、まわりにいる女性が目に入らない。
自分のことは棚に上げて、まわりがダサク見える。
ますます女性との縁は遠のくばかりである。
 
劇場パンフレットから

 神父さんが教会で恒例の映画会を開いた。
「十戒」が上映されるはずだったが、手違いにより「テン」が上映されてしまった。
ボー・デレクの見事な肉体に触発された若い男性たちは、嫁さんを募集する広告を出すことにする。
それはなんとアメリカ女性に向けたもので、マイアミのヘラルド紙に聖マルタ祭への招待広告を出した。
広告に応じてアメリカ女性が、田舎に来ると信じて疑わない男性たちの滑稽さ。
胸をときめかせて、その日を待つ男性たち。
バスが着くたびに、停留所に偵察にでる男性たち。
しかし、誰も来ない。
穏やかでないのは、無視された村の女性である。
キーラン(イアン・ハート)に気のあったシボーン(キャサリーン・ブラッドレイ)は、無視されたことに加えて、他の女性に秋波を送ったことに、怒りは心頭に達する。

 聖マルタ祭の日、アメリカ女性は誰もいない。
代わりにいるのは、シボーンが連れてきたスペイン男性ばかり。
女性たちはこぞってスペイン男性になびいていく。
しかし、祭りが終わってみれば、スペイン人たちは帰ってしまう。
身近にいる人間の良さに気づき、キーランとシボーンは結ばれるし、イアン(ショーン・マッギンレイ)とケイト(ニーアム・キューザック)も上手くいくようになる。
騒動があって、身近なものの良さが判るというタイトルどうりで、昔の説話のような映画である。

 可もなし不可もなしの映画だが、見て損をしたというわけでもない。
そこそこに楽しめる映画である。
それにしても、田舎の状況はどこも似ていることか。
わが国でも田舎では嫁日照りが言われて久しい。
田舎の男性は家を守らなければならないが、同じ立場にあるはずの女性の父親ですら、田舎の家には嫁がせたくはないと思っている。
農業や漁業といった第一次産業には、もはや夢がないのだ。

 辛い労働や厳しいしきたりがあるばかりで、女性には幸せが約束されてはいなように見える。
男性に限らず、こぞって村人の目は都会の方を向いている。
誰も地元の良さなど、気がつきもしない。
地元の良さを声高に主張する保守的な人ですら、自分の娘を農家には嫁がせないのが何よりの証拠である。
田舎を誉めるのは、そこに住むことのない都会人だけである。

 この映画でも、アイルランドの男性たちが格好いいと思って広告を出す先はアメリカである。
表向きはアメリカなんてとバカにしながらも、今やアメリカが格好いい国の最先端である。
東京の先にはアメリカがある事情は、わが国でもまったく変わらない。
経済力の強さと文化の優越性は切り離せないものだ。
もちろん、各自は憧れだけを夢みて生活できるわけはなく、身近な人たちで昔と変わらぬ生活をする例が圧倒的に多いのだが、その中から少数の若者が夢を抱いて生まれた場所を去っていく。
そうして少しずつだが、変わっていくのだろう。

 この映画で最後に、ショーン(ショーン・マクドノー)がバスに乗って都会に出るシーンは、アイルランドの後進性を象徴している。
今やアメリカの映画は、都会から脱出する若者の姿を描くというのに、アイルランドではまだ都会に希望を持っているのだから。
管理社会化が進み、都会でも上昇志向が満たされなくなりつつある。
特に子供が夢を見ることができなくなっている。
田舎も夢がなく、都会も夢がないとすれば、いったい何に希望を見て生きていくのだろうか。

 それにしても情報途上国では、真面目な男性をちゃかす映画が多い。
それは男性は女性よりまだまだ強いことの証だろう。
弱い者をちゃかしたら、いじめになってしまう。
それはやってはいけないこととされているから、弱い者である女性批判はなく、男性をからかうのだろう。
自分を批判することが近代人たる所以だとすれば、男性監督が真面目な男性をからかう映画を作るのは、近代人たる男性の余裕か。

2000年のアイルランド映画 


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