タクミシネマ        海の上のピアニスト

海の上のピアニスト    ジュゼッペ・トルナトーレ監督

 外国航路の豪華客船の中で、生まれ育ったピアニストの一生を描いた映画である。
ヨーロッパとアメリカを往復する船だったヴァージニア号は、いつも2千人の客を乗せて航海していた。
ある時、生まれたばかりの赤ちゃんが置き去りにされ、それを釜焚きの黒人ダニー(ビル・ナン)が見つけて育てることにした。
彼は1900年に発見されたことから、1900と呼ばれるようになった。

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前宣伝のビラから

 1900(ティム・ロス)はピアノの天才で、誰に教えられることもなく、ピアノが弾けるようになる。
その後、素晴らしい演奏で聴衆を魅了し、天才の名前をほしいままにした。
親友マックス(プルート・テイラー・ヴィンス)との交流や、少女への淡い恋心など、いくつかのエピソードを交えながら、彼の一生を描く。
最後には船が廃船になり、爆破されるにもかかわらず、船と運命をともにした。
この映画は現代のおとぎ話で、誰にも教えられずにピアノが弾けたり、廃船になった船に食糧もなしで住んでいたり、とおかしなところはたくさんある。
それは監督も判っているはずだ。
だから、そうした部分を指摘しても、何の意味もない。

 この映画は、やや古典的とはいえ優れた美意識に支えられた画面と、ピアノの演奏が見物の映画だろう。
少しセピアがかった画面は、巧妙なライティングにより陰影深く映し出される。
画面構成もなかなか素晴らしく、雨のなか彼が思いを寄せる少女の一人甲板にたたずむ姿は、きわめてバランス良くしかもやや幻想的な雰囲気すら持っていた。
しかし、そうした画面の美しさをのぞくと、この映画は何を言いたかったのか、よく判らないのも事実である。

 1900が船を降りようとする場面があって、タラップを途中まで歩いていくが、結局また船に戻ってしまう。
現代なら、彼の心理は陸地恐怖症とでも名付けられるのだろうか。
彼のその時の心境が、船と運命をともにする最後に語られる。
ピアノは88という有限のの鍵盤を使って、無限の音楽を創造する。
しかし、新大陸は無限の大地であり、そこにどう道筋を付けどう生活していくのか判らない。
彼は無限の世界に足を踏み入れるのが怖いと言う。
ここで近代批判をしていると言えばいえるが、それが主題だというには鮮明さに欠けるように思う。

 農耕社会という前近代は、身分や生まれが人間を縛り、言いかえると身分や生まれが人間を守った。
分に応じて生活するなかで、様々の傑作が生まれてきた。
身分が人間を支えたから、前近代は安定していた。
しかし、近代を象徴する新大陸は、限度がなく無秩序で人間の身分など何の役にも立たない。
音楽も神の御手を実現するのではなく、人間が神に代わって創造している。
それは人間が神の領域を侵すことだ。
この映画から、何となくそんな主張は感じるが、それを言うにはあまりに長い前半である。

 船がニューヨークに着くと、誰かが「アメリカだ」と叫ぶ。
アメリカという響きは、自由の新大陸を意味したのだろう。
アメリカは帝国主義の国であると同時に、いまでも反体制活動家には亡命先として自由の地でもあるのだ。
我が国では階級意識が希薄だが、客船という階級がしっかりとできた社会、それが前近代と近代にどう反映するのか。
アメリカ船籍の船だとはいえ、結局、何だかよく判らない映画だった。
それにしても西洋音楽が、貧富老若男女を問わずに西洋人たちに受け入れられるのは、いつものことながら驚く。
我が国で、多くの人が共有する音楽とは何だろうか。

1999年のイタリアとアメリカの合作映画。             


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