タクミシネマ        双生児

双生児         塚本晋也監督 

 江戸川乱歩の小説を、塚本晋也監督の新たな解釈により映画化された。
明治の末期という時代設定のため、画面は今日的な風景ではない。
ロケハンにはとても苦労したと思われる。
しかし、忠実な時代考証をするのではなく、むしろパンクな衣装や現代的な解釈による、デフォルメした画面作りが目的だった。
これで良いのだろうが、パンクか忠実な解釈か、どっちつかずの感じがしたのは否めない。

 大徳寺医院の跡取り息子である雪雄(本木雅弘)は、近くでは評判の名医だった。
しかし、部落の女性とは知らずにリン(りょう)を妻にしたことから、不幸な事件が多発するようになる。
まず、不可解な父の死、
そして母の死。
やがて、その原因は自分の双子の兄弟捨吉(本木雅弘)の仕業と判る。
しかも、雪雄は捨吉によって深い空井戸へ落とされて、自分になりすまされてしまう。
捨吉は生まれたときに股に痣があったので、それを嫌われた両親によって捨てられたのだった。

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 部落の旅芸人に拾われて育った捨吉は、リンと夫婦になっていたが、捨吉は座長と対立しそこから追い出されてしまう。
その間、リンは捨吉を思いながらも、雪雄と出会い結婚し大徳寺医院の若奥さんとなる。
リンを追って大徳寺医院に入った捨吉は、自分が大徳寺医院の当主に納まり、雪雄になりすます。

 性に淡泊だった雪雄に対して好色な捨吉。
夜の生活からリンは捨吉だと気がつくが、どうしたわけか捨吉はリンの前で雪雄を演じ続ける。
古井戸から脱出した雪雄によって捨吉は殺され、両者は何もなかったように今までの生活が続いていく。

 この映画は、いわば日本版のコスチューム劇で、取り立ててこれと言った主題はないと言っていい。
主題らしきものがあると言えば、痣のある兄弟を捨てたのが殺人であり、医者という人の命を救う職業にあるものが、殺人をおかしているというあたりであろうか。
それは映画の中で、たびたび繰り返される。

 まず、雪雄が医者である父にむかって、「戦地で助からないことが明白な兵士の救命より、安楽死させたほうが良かったのでは」と問うと、父親は「命は神が与えたものであり、それを救うのが医者のつとめだ」と答える。
もちろん、大徳寺医院の雪雄の行動もそれを実践するが、その大徳寺家の人間が子供を捨てたのだと、捨吉に言わせる。
しかし、この主張はあまり切実には響かない。
これを主題とするなら台詞で言うのではなく、演技や映画全体で見せるべきだろう。
言葉で主題を語ってしまっては、何のための画面やストーリーがあるのだか判らない。

 深手を負った市長とペスト患者の部落の子供が、同時に大徳寺医院に運び込まれる。
そのとき、雪雄はペストの子供を看護婦に預け、自分は市長の手術に専念する。
それが後日リンから、部落差別だと非難されるシーンがある。
しかし、それはあの場面なら当然の判断だと思われ、あの場面で部落差別を導き出すのはちょっと難しいようだ。
手術は雪雄をしかできず、ペストは薬の処置しかなかったし、彼はそれを看護婦に指示している。

 部落は不衛生だという彼の発言にしても、事実に関するものであれば必ずしも差別発言ではないだろう。
多くは混同するが、部落は不衛生な場所だという指摘と、部落民は人間的に劣者だという指摘は次元が違う。
ただし、部落を特定の場所に固まった村落集団だと見なすことは、むしろ差別的に思えるが。
わが国の部落差別は、住んでいる場所に基づくものではなく、職業による差別だからこの映画は事実に反しており、差別の原因を新しく創りだしているように感じる。

 この映画は、フィルターを使ったセピア調の画面、独特の衣装や眉を剃ったメイクなど、塚本晋也の世界を楽しむもので、あまり主題など云々しない方が良いようだ。
確かに60年代を彷彿とさせる画面は、どこか懐かしささえ感じられて、昔を知らない若い人や外国人たちに新鮮に思われるだろう。
しかし、およそ現実には使われないだろう未消化な台詞、思わせぶりな演技などが目立ち、映画としてはぎくしゃくした感じが強かった。
もう少し滑らかに展開させて欲しい。

1999年の日本映画。


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