タクミシネマ        タイムトラベラー

 タイムトラベラー  ヒュー・ウィルソン監督

 1962年のキューバ危機の時に、アメリカに原爆が落ちたと勘違いした科学者ウエーバー夫婦が、地下のシェルターに立てこもった。
そこは自立的な日常生活を送るのには完璧な環境で、以来35年にわたって彼等は孤立した地下生活をしてきた。
地下生活を始めてすぐ、彼等の間には男の子が産まれた。
アダム(ブレンダン・フレイザー)と名付けられた彼は、空も海も、女の子も見たことなしに育ってきた。
35歳になった彼が、食糧を求めに地上に出る話である。
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劇場パンフレットから

 1930年代生まれの父親カルヴィン(クリストファー・ウォーケン)と母親のヘレン(シシー・スペイセク)に、1962年の価値観で純粋培養された彼は、1999年の現代にはまったく異邦人だった。
1962年当時、ウエーバー家があった場所は、いまではスラム化して、ジャンキーや売春婦・ポルノショップが建ち並ぶ場所になっていた。

そこへ忽然と現れた彼は、神様と勘違いされ、一目惚れした女の子イヴ(アリシア・シルヴァーストーン)からは気違い扱いされる。
それでも、誠意の一押しで、結果はハッピーエンドである。

 価値観が荒廃し、様々なカウンターカルチャーが、その有効性を確認できなくなった。
ホームレスや怪しげな人間が跋扈する現代を、1962年当時の確立された価値観に引き比べてみせる。
それは現代を認識するために、実に有効な有効な手段である。
未開の地からやってきた人間が引き起こすドタバタよりも、かつての自分たちであることを知っているだけに説得力がある。
しかし、過去と比べて現代を論じる姿勢は、懐古趣味と言われても仕方なく、過去のほうが良かったと言うことには絶対にならない。

 この映画は、丁寧に作られているし、演技も上手い人たちがでている。
ストーリーも納得できる。
セットはお金がかかっている。

興味も自然につながり、最後まで飽きさせずに見せる。
着想や主題は感心したので、星一つを付けるが、しかし、どうも面白くないのである。
それはこの映画が、過去を規準にして現代を語っているからだ。
それは時代錯誤として、パロディの対象にはなっても、過去を正当化することにもならないし、現代を批判したことにならない。
現代を語るときは、時代を先に進めることが、大前提にあった上でなされるべきである。

 野球カード、35年前の株式、ジルバ、昔のファッション、紳士とはなどといった楽しめる要素がいっぱい。
10年おきに、世相を切ってみせるのも楽しい。
また、孤独からだろうアル中になったお母さんが、地上に出たくて仕方ないのもおかしい。
過去を懐古する限界がありながら、2時間という長い時間を充分に楽しめる映画ではある。
それにしても、強烈な共産主義批判には驚く。

1999年のアメリカ映画。


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