タクミシネマ        スリー・キングス

スリー キングス      デヴィッド・O・ラッセル監督

 湾岸戦争は空爆だけで、地上戦は大したことなく終わってしまった。
現地にいる兵士たちは、欲求不満に陥っていた。
そこへ、サダム・フセインがクウェートから盗んだ金塊の隠し場所を書いた地図が発見された。
すでに戦争は終わっているが、4人のアメリカ兵がその地図を手に、金塊泥棒に出かける。
映画が始まると、冒頭のテロップが出ているうちに、砂漠を歩く足音が小さく聞こえてくる。
それがだんだん大きくなって、物語への期待を高めている。

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劇場パンフレットから

 職業軍人であるゲイト(ジョージ・クルーニー)少佐は軽いノリで、砂漠にジープを走らせ、3人の仲間トロイ曹長(マーク・ウォールバーグ)、チーフ軍曹(アイス・キューブ)とコンラッド二等兵(スパイク・ジョーンズ)で、イラク陣地へと向かう。
コンラッドは途中で死ぬので残り3人、つまりイラク解放の3人の王という話である。

 イラク軍はクウェートから、金目のものを大量に盗んだが、それを地下の砦に隠していた。
イラクには少数ながらフセインに反抗する者もおり、イラク軍は反乱分子を拘束・拷問をしていた。
そこへアメリカ軍だと名乗って、4人が突入する。
実にあっけなく金塊の泥棒には成功するが、そこには反乱したイラク人たちが50人ほどおり、その地に止まればフセインに殺されると訴える。
車を破壊された4人は、彼等の車と引き替えに、彼等をイランとの国境まで送り届けることになった。
これはもちろん停戦協定違反だし、なにより軍規逸脱である。

 軽いノリというか、粗い作りというか、大ざっぱというか、とにかく力まかせの映画だが、それがなかなか新鮮な出来である。
じっくりとした心理描写など、まったく見られない。
ドンパチドンパチであるなかにも、主人公たちの気持ちがちゃんと伝わってくる。

 燃焼しきれなかった湾岸戦争のアメリカ陸軍兵士たちの戦争観が、鮮やかに描き出されている。
戦争はしないほうが良いに決まっているが、一度出征したいった兵士たちは、戦うために戦場に出かけたのだ。
しかも、停戦になった戦場ではいまだに、フセインの支配が続いている。
そこで庶民は殺されている。
当初、気楽だった彼等も、アメリカ軍批判の眼を持ち始める。

 ベトナム戦争も戦うにつれ、ベトナム人は西洋人やアメリカ人と違うことが判ってきたように、アラブ人もまた別の人種である。
アラブ人の感覚は、アメリカ人より日本人のほうが理解しがたいかも知れないが、それでもアラブ人を理解するのは難しい。
そのへんの戸惑いを、アメリカ流に強引におしながし、アメリカ人兵士の見た湾岸戦争を映画の軸にしている。
湾岸戦争は、フセインに対する懲罰と言うことになっているが、実際のところは石油の確保だったことは間違いない。
であれば、石油が確保できればいいわけで、イラク人の思惑など知ったことかとなるのは自然である。

 どこの砂漠で撮影したか判らないが、大量の物量を砂漠に持ち込み、大勢のエキストラを配置しての映画作りである。
たわいないとさえ言われかねない映画だが、とてもお金がかかっている。
今までの戦争映画にはない妙に明るい感覚があり、今日的な映画に仕上がっている。
「アメリカの災難」と同様に、ややブラックではあるが、コミック仕立ての戦争映画が作られることは、アメリカの自由さなのだろう。
湾岸戦争に対する、皮肉がいっぱい効いている。
しかし、アメリカ兵がイラク解放のキングだというのは、きわめてアメリカ中心的な見方である。

 インフィニティにはオープンカーがあるだのトヨタはどうしたのと、さかんに日本のブランドが出てきた。
ロールス ロイスの隣に、インフィニティのオープンが止まっているシーンは不思議な感覚である。
いまやロールス ロイスと日本の高級車は同格なのだろうか。
報道記者のエイドリアーナ(ノーラ・ダン)の役割が面白かった。
マーク・ウォールバーグは上手かったが、ジョージ・クルーニーは下手だ。
胸部に弾丸を受けたトロイ軍曹が応急手当を受けるが、砂漠ではその傷がいつ命取りになるか判らない。
米軍のヘリコプターが近づいてくると、ああこれで助かったという安堵感がある。
自然のなかには医者はいないのだ。
医療施設の発達した近代的な世界は、ありがたいと思ってしまう。

1999年のアメリカ映画 


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