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トーマス クラウン アフェアー 
 ジョン・マクティアナン監督

 「華麗なる賭け」のリメイクだと言われるが、それなりに楽しめる娯楽映画に仕上がっていた。
ピアース・ブロナン扮するトミーことトーマス・クラウンは、大手証券会社のオーナー社長である。
40歳の初めにして、巨額の富を手に入れてしまった彼には、もはや何も刺激とは感じられなかった。
しかし、彼にはもうひとつの顔があった。
それは美術品の収集家という顔であり、しかも、そのうちのいくつかは巧妙に盗んだもの。
つまり、本当に欲しいものは盗んでもてに入れるという窃盗犯だったのである。
トーマス・クラウン・アフェアー [DVD]
劇場パンフレットから

 彼はモネが大好きで、すでにいくつか作品を持っている。
今回もニューヨークのメトロポリタン美術館にあるモネの絵を狙っていた。
四人の強盗団を囮として、トロイの馬よろしく忍び込ませる。
彼等は美術館のクーラーを止めて、温度センサーを麻痺させる。
そして、絵を盗み出そうとするが、警備員に簡単に取り押さえられてしまう。
しかし、そのごたごたを利用して、彼はまんまんとモネの絵を盗み出す。
もちろん、強盗団は彼が雇った陽動作戦の担当者だった。

 これだけなら、何と言うこともなく終わるはずだったが、そこに登場したのが保険調査員キャサリン(レネ・ルッソ)である。
彼女は、モネの絵にかけられた一億円の保険金支払いを渋る保険会社に雇われた賞金稼ぎだった。
保険会社は一億円の保険金を払うより、絵を発見してくれればと、彼女に5%の礼金を払うほうを選んだのだ。
ニューヨーク警察と違って彼女はこの道のプロである。
たちまちトミーが犯人だと見破り、証拠を捜すべく捜査を開始する。

 ここからはトミーとキャサリンの知恵比べが展開するのだが、すべてにわたってトミーのほうが一枚上手。
結局、キャサリンはトミーの愛情攻撃に陥落し、二人はすべてを捨てて恋の逃避行に走るという結末になる。
もちろん大金持ちの彼等のこと、たっぷりとした財産を持っての隠退生活に向けて、カリブ海の小さな島に移住するのだ。
この駆け引きが、贅沢な演出の中で演じられ、その贅沢さが見物と言えば見物である。

 トミーの乗る車は、もちろん最新型のベントレー、腕時計はピアジェ(?)、洋服はテーラーを自分の事務所へ出張させてのオーダーメイド。
ヨットはと言えば、最新型の大型カタマラン。
それを強風下で操り、強気のままセーリングし沈させて平然としている。
空といえば、飛行機ではなくスノッブなグライダーである。
しかも、ハイテクの結晶である最新型の、超格好いいグライダーを悠然と操縦してみせる。
そして、ニューヨークから4州も離れた場所に着陸した彼等は、そこからプライベートのジェット機でカリブ海の孤島にある別荘へと飛ぶ。
そこで乗る車は、マスタングのコブラをオープンに改造したものだ。
すでにクラシック・カーになりつつあるマスタングの屋根を切ってしまう!

 女性用の贅沢品もたくさん登場する。
まず、高級な洋服、ケリーバック、そして、ブルガリのネックレスなどなど。
しかし、女性用の贅沢品は意外に少ないことに気づく。
せいぜい宝石くらいだが、宝石は男性も身につけるし、第一宝石は眺めるもので、それを使って楽しむものではない。
女性がお金があったら実現したいと考えるものは、どうも積極性に欠けるように感じるが、どうだろう。
趣味の世界でも、男性が作った領域へと女性が参加してくるのだろうか。
もちろんそれは大歓迎だが、女性が作る贅沢なるものを聞かせてくれると面白い。

 別荘がじつに質素で良い。
小高い丘の上に建ったこの建物は、自然の空気のままに過ごせるように、人工的な装置をワザと作ってない。
あたかもバリなどにある高級なリゾート地のホテルのようである。
そして、もちろんふんだんに人手があるので、優雅な生活が楽しめる。
お金のある先の快適さが、自然の中の質素さというのも良く判る。
ここでは貧乏だった頃の自然ではなく、豊富な物質に裏付けられた、いわば作られた質素さなのだ。
いつでも物質的な豊かさは手に入れることができる保証の上に成り立った質素さ。

 先進国の人たちは、自然を見直せとか自然との共生などと、暢気なことを言っているが、第三世界の人たちには豊かさの保証がない。
地球上では、むしろ自然は過酷であることが多く、人間は過酷な自然と辛うじて折り合いを付けて生活しているにすぎない。
少しでも自然監視の手をゆるめたら、たちまち自分たちの生活がかき消されてしまうのだ。
第三世界の人たちが、物質的な豊かさに憧れ、それを手に入れたいと願うのは当然である。
豊かな日本人から見ても夢のようなトミーの生活は、第三世界の人たちからは想像もできないに違いない。

 贅沢な世界をたくさん見せてくれ、それはそれで目の保養になったが、映画としてはすでに古い。
キャサリンは良くやっているが、トミーのほうが完全に上手に描かれているし、男性側は自分の位置から何も動いてない。
しかも、恋の逃避行はトミーからの提案であり、完全にキャサリンを手玉にしている。
約束のヘリポートにはトミーは現れず、失意のうちに乗った飛行機にトミーが乗っている、という彼女を半人前扱いした終わり方である。
それでも、最後にキャサリンはトミーにすがりつく。
このエンディングは疑問である。
キャサリンは有能ではあるが、結局男性にはかなわない女性と描かれ、自分の保険調査員という立場をトミーによって捨てさせられた。
それは強制ではないが、はっきりした敵対でないだけにむしろ始末に悪く、よけいに卑怯だとも言える。
この映画の冒頭の台詞は、精神科医から「女性?」と聞かれたトミーが、「I enjoy woman」と答えているのも、最初から何やら示唆的ではあった。

 女性が職業を持った現在、女性の自己決定権を懐柔するような男性の行動は、愛情に基づくといえども非難されるだろう。
愛情という麻薬に絡めた女性陥落は、今後は多くなるに違いない。
女性が自己決定権をどう確立するか、これからが女性たちの正念場だ。
「華麗なる賭け」でヒロインを演じたフェイ・ダナウエが、精神科のカウンセラーとして出演していた。
また、すでに一児の母であり、40歳を越えと思われるレネ・ルッソだが、その均整のとれた体は、日々の厳しいトレーニングをしのばせて、心が熱くなった。
なぜだか、フジフィルムが使われていた。

1999年のアメリカ映画。


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